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まだ、おじいちゃんの魂は大陸の戦場にあるのかもしれない。たった一人でいまだ終わらない行軍を繰り返していて、血も乾ききらぬ肉塊が転がっている中に呆然と立ち尽くしているのだろう。これはおれが殺したんじゃない、おれが殺したんじゃない。そう叫びながら。
病院に着くと、受付を済ませておじいちゃんの病室に直行した。早くたどり着かないとおじいちゃんが死んでしまうような気がして、階段をひたすらにかけあがった。
病室は加齢臭であふれていた。入り口からはどれがおじいちゃんかわからなかった。一つ、一つベッドをのぞきこんで確認する。
「どこを探しとるとや」
聞きなれた声がした。小さな声だったが間違いなかった。
「おじいちゃん」
おじいちゃんが片手をあげた。私が知っているおじいちゃんよりはるかに細くなったその腕は垂直につきあげられたままわずかに震えていた。
本当は私の方がいろいろと聞きたかったはずなのに、いろいろな質問攻めにあった。仕事のこと、一人暮らしのこと。お父さんやお母さんのこと。そして、結婚のこと。
ひたすらに質問されて、沈黙が訪れたとき今度は私からきいた。
「おじいちゃん、戦争から帰って来たときやっぱりうれしかった?」
「なんや、いきなり」
おじいちゃんは目を丸くしていた。それでも静かに答えてくれた。
「そりゃあ、うれしかったくさ」
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