春のひとひら

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 私は引き出しからあの写真を取り出すと、じっとそれを見つめていた。おじいちゃんとお母さんとレポーター、三者三様の表情をしている。その下に「戦争はやっちゃいかん」という赤文字が大きく書かれていた。行軍の汗のにおいも、罪の意識も、七十年前の桜の残酷な美しさもそこには一筋も流れていなかった。ただ無味無臭の水のような味気なさがあるだけだった。  無性に腹がたった。腹が立って仕方がなかった。私は写真を両手で乱暴につかみとると、縦に横に、何度も何度も引き裂いて粉々にした。そして天井に向かって放り投げた。無数の紙切れが頭上からはらはらとこぼれ落ちていった。                                         (了)
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