春のひとひら

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「凜香、ほら、見てみい。ここにじいちゃんが写っとろうが。うしろに写っとるのが、直属の上官。えらい厳しか人間やった。そいから、これがっちゅうてじいちゃんと一番仲の良かった人間たい。このまえの二十八連隊会でも会うて話ばした。ちゅうても、もう七年前になるけん、まだ生きとうかどうかわからんばってんな。  そして、こいつたい! この右端に座っとると! こん畜生が、釜山から汽車で満洲へ向かいようとき、満洲に入るすぐまえに汽車から飛び降りよった。みんな、戻れ、戻れ言うとったが、飛び降りたもんは元には戻せん。汽車はどんどん、どんどん走っていくけんな。消し炭のごとあいつが小さくなっていくとば、黙って見守るしかなかった。あいつはどうなったっちゃろうか。あのあと、生き残ったやろうか。すぐ死んでしもうたかもしれんな」  おじいちゃんは明らかにその人のことをバカにしていた。連ねられた言葉だけじゃない。口調からもそれが分かった。そんなおじいちゃんに、その人の代わりに私が反発した。そう思いたくなっても当たり前じゃない。誰だって殺されたくない。そして、人を殺すようなことはしたくない。おじいちゃんじゃないんだから。     
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