乾杯 #2

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私たちはこの店で二人で新年を迎えた。 先程の店では若者たちが大きな声でカウントダウンでもしたかもしれない。 私たち二人の年越しは静かなものだった。 健吾くんの腕時計を二人で覗き込みながら、 声には出さないカウントダウンでその時を迎えた。 静かに、 落ち着いて、 新しい年を迎えたことを噛みしめる。 何かが始まりそうな特別な年を迎えた気さえしていた。 「リン、今年はよろしく」 「今年は?」 「だって、去年までは全然よろしくしてないじゃん。今年こそはって意味」 「……そうかもね。じゃあ、こちらこそよろしくね」 健吾くんが私に伝えたい意味と 私が理解した意味が一致していればいいんだけど。 少し不安になりながら、 一年で最初の挨拶を健吾くんと交わせたことにうれしさが込み上げた。
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