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しばらく待って出されたワインからはゆらゆらと蜃気楼のように湯気が揺れていた。
今日何度目かの乾杯をして私たちは同時にグラスを口に運んだ。
「……おいしい」
ホットワインは健吾くんの最後の一言が利いたのか、
少し甘めに仕上がっていた。
「ホントだ、旨い。だいぶ大人な味だけど、そんなに遠くないよな?」
「うん。初めてなのに……懐かしい」
私は温かいグラスを両手で包んだ。
「あの味も私たちと同じだけ大人になったんだよ。今の私たちにはこっちだね」
「……だな」
健吾くんが二ッと笑ってグラスを口に運ぶ。
彼の横顔を淡いライトの灯りが照らしていた。
あの頃、真夏の太陽の下では
私は彼の横顔には気付けなかった。
健吾くんはずっと、私を見てくれていたのに。
私もグラスに口をつけた。
一口目より少し渋みを増して、
懐かしい味は喉を焦がして落ちていった。
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