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……何で今なの。
……何で彼なの。
この電話は私から言葉だけじゃなく、
体温まで奪っていく。
血の気が引くという体験はこれまでにほとんどしたことがないけれど、今まさに実感した。
完全に足の止まった私を見ながら健吾くんも歩みを止めた。
寄り添って歩いてきた私たちの距離では、
健吾くんの声は十分に私の耳に届いていた。
「――おう、久しぶり。――ああ。――うん」
「――ああ、ちょうど今日帰って来たとこ」
「――いや、明日にはもう帰る」
「――ああ。ちょっと飲みに行ってた」
健吾くんはそこで私を見つめる。
口の両端は上がっていた。
「――鈴ちゃんと」
私の心臓は完全に落ち着きをなくした。
純也さんが健吾くんと私が一緒にいることを知ったらどう思うだろう。
純也さんからの次の言葉が怖かった。
私の言うことなんか聞いてくれないとはわかっているけど
祈らずにはいられない。
……神様。
両手を合わせて握りしめる。
しかし、
案の定、願いは届かず、
健吾くんの表情が曇りだす。
健吾くんは私を見たまま話を続けた。
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