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結局、私は賭けにも負けて、健吾くんとの二人の空間も失ってしまった。
運転席を気にしながら言葉を探すけれど、
何かを口にしたら、涙が溢れそうだった。
私を引き寄せた健吾くんの手は私の腕から離れ、
二人はそれぞれの手の行き場を持て余していた。
健吾くんは私を『送る』と言った。
ほうじ茶での乾杯は出来そうになかった。
「タクシーの中、あったけえな」
「車、少ねえな」
「リン。寝るなよ」
健吾くんがくれる当たり障りのない言葉が健吾くんの優しさだと気付きながら、私は心の中ではそれを拒絶していた。
私はそんな言葉が欲しいんじゃない。
車内では時折聞こえるタクシーの無線連絡が、
二人の会話の隙間を埋めていた。
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