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「……うん」
それだけを言うのが精いっぱいだった。
「早く上がれよ。おやすみ、リン。風邪引くなよ。じゃ」
健吾くんはタクシーに戻り、
ハザードランプを灯していたタクシーがゆっくりとすべり出す。
手を振ることも出来ずに立ち尽くす私の目からは
我慢し続けた涙が溢れ出した。
『会えてよかった』なんて言葉より
『もっと一緒にいたい』が欲しかった。
人は人を好きになると欲張りになるのだろうか。
私の想いは懐かしさからカタチを変え、
ゆっくりと新しい感情を成していくのに、
やっとほどけ始めた想いの糸は
私の心を締め付けるだけだった。
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