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仕方なく振り返り、いつもどおりに待ち受ける階段を涙を拭きながらゆっくり上がった。
ほんのついさっきまではこの階段を健吾くんとのぼるはずだったのに。
涙で濡れる手で鍵を開け、重いドアを引く。
ドアが閉まる無機質な音を背中で聞いて、電気をつける。
ブーツを脱ぐと足先から冷気がまとわりついて全身を這ってくる。
「……ただいま」
小さく呟いて進む私の部屋は、
変に片付きすぎて、
なんだか私の居場所じゃないみたいだった。
リビングに入るなりバッグを手放し、
コートを脱いで放り投げた。
そして、いつもの手順で暖房の準備をしてからお湯を沸かす。
なんの感情を持たなくとも、
自分に染みついた行動パターンが私を無意識に動かしていた。
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