乾杯 #2

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駐車場に車を止めて、行き先を車内で相談した。 健吾くんは寒くないようにエンジンをつけたままにしてくれた。 行先はひと駅先にある小さなレストランバーに決めた。 由奈と何度か言ったことのある店で、 ポップな雰囲気の店だが、料理が美味しい。 あまり落ち着いた店だと、 余計に緊張してしまいそうだった。 健吾くんは遅くなってしまったことと、私の冷えた身体を心配して、タクシーで行こうと言った。 しかし、私は一つ提案した。 「まだ電車あるし、電車で行かない?」 「タクシーの方が歩かなくていいじゃん。寒いだろ?」 「いいの。電車も歩くのも」 「……変なヤツ。いいよ。行こう。その代り、帰りはタクシーな」 「うん、了解」 私たちは電車に乗った。 ここから一駅。 私が通学した道のりだ。 ()いている車内で隣り合って座り、楽し気に会話を交わす私たちは、 周りから見れば普通の恋人たちに見えるだろう。 本当は5年ぶりに会い、 ものすごく緊張してる。 そんなことはきっと周りの人間からは想像もできないだろう。 自分でも驚くほど自然に会話ができていた。 真っ黒な窓には冬の街並みではなく、 5年ぶりに再会した 二人の笑顔が映っていた。
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