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「リン、相変わらずビールダメなの?」
「うん、苦手。だって、苦いもん……」
「リンは子供だな。苦いのがウマいんじゃん」
健吾くんは笑ってビールを流し込んだ。
『リンは子供だな』
大人になった私を見て欲し欲しかったのに、完全な子供扱い。
だけど実際に健吾くんに言われた後では、
私の頭をくしゃくしゃって撫でるみたいに心地よくて、
もう子供でもいいやって……思っていた。
二人ともお腹が空いていて、
パスタとリゾットが届くと飛びついていた。
「健吾くん……口」
健吾くんの口の端にミートソースが付いていた。
「健吾くんだって子供じゃん」
「うわ、リンに言われたくねえ」
健吾くんは笑いながら私を睨み、
紙ナフキンで口元を雑に拭った。
もうずいぶん長い間会っていなかったなんて
誰が信じるだろう。
会えなかった年月を埋めるという作業は
私たちには必要なかった。
埋める溝も、穴も
どこにもないみたいだった。
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