0人が本棚に入れています
本棚に追加
1.そして、彼女はその孤独と共に去りぬ
「終わりだ」
全てが済んだ後で、彼は言った。
「もう、全て終わったんだ。残念だけど」
――そうね。
「あるいは最初から、何も始まってはいなかった。何も」
そう言って彼は、静かにあたしのそばを離れる。
そして、薄暗い部屋の中に横たわるあたしの体は、少しずつ熱を失いはじめる。
まるで、小さな子供がどこにでも連れ歩く、プラスチック製の人形みたいに。
――ねぇ。
人形となったあたしは言う。
――結局のところ、あたしは、あなたの中を通り過ぎていくたくさんの中のひとつに過ぎないのね。
ジーンズのベルトを締めると、彼は何枚かの紙切れをあたしのそばにそっと置いた。
――短い間だったけど、あたし、あなたの事忘れないわ。
汚い物を見るような目であたしの事を見る彼は、もう以前の彼ではない。
もう、前みたいな関係に戻れないのはわかってるの。でも――。
「君は変わったよ」
沈殿した空気の中で、彼はあたしの体を見ずにつぶやく。
「出会った頃の君は、もっと綺麗だった。輝いていて、誰の目にも魅力的に映った。誰もが君の事を欲しいと言った」
一体、何を言っているの。
「でも、僕と過ごした時間は、君を変えてしまった」
もう、あたしの体の中に、彼の温もりは残っていない。
――やめて、聞きたくない。
「僕たちは、いっしょに居るべきではなかったんだ」
――あなたの唇の感触が、まだ忘れられないの。
「お別れだ」
ねぇ、お願い、最後にもう一度だけ――。
それから僕は、ゆっくりとレバーを『大』の方向へ回した。
最初のコメントを投稿しよう!