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2.それから、やがて来るべき世界の終わり
「あいつらの事を知ってる?」
バーで隣に座った女は、ひどくおびえた様子でそう言った。
「あいつら?一体誰だい、それは」
「……この世界を裏で操ってる奴らのことよ。そいつらの手にかかれば、手元のスイッチ一つで誰の存在でも消し去ることだってできる」
「ばかばかしい、今どき誰も信じないぜ」
そう言って、私は空になったトム・コリンズのグラスを置いた。
「別にね、信じてくれなくたっていいの。ただね、問題は、もし私の存在が消されたとして、誰が私の事を覚えてるかってことなの。そうでしょ?」
「その話が本当だとしたらね」
「……実を言うと、さっきからじっと誰かに見られているような気がしてならないの」
「気のせいさ」
「あなたはまだ、あいつらの恐ろしさを知らないのよ」
「なぁ、これだけは言っておくぜ。ドラッグだけはやめといた方がいい」
「……ねぇ、あなたの事を見込んで、一つ、お願いがあるの」
「なんだい?」
「つまり……もし、私が消されたとしたら、あなただけは、私の事を覚えてて欲しいの。私がここに存在してたって事を忘れないで欲しいの」
やれやれ、私は思った。ここは少しだけ、この女の話に付き合ってやるとしよう。
「オーケー、多分忘れないよ。約束する」
「……そう、それを聞いて安心したわ。そろそろ時間なの。あいつが目覚める頃よ」
「なぁ、余計なお世話かもしれないけど、あんた一度病院行った方が――」
――プチッ
しかし、次の瞬間には、全てが消え失せていた。
そこには、おびえた女の姿も、その女が飲んでいたブラッディ・メアリも、空になったトム・コリンズのグラスも存在しなかった。
今そこにあるのは、黒い画面でたたずむブラウン管だけだった。
「いつの間にか、寝ちゃってたな」
僕はテレビのリモコンを放り投げると、部屋の電気を消し、ベッドへと向かった。
最近の映画は、ひどくつまらない。
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