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眼を閉じると彼の笑顔が浮かんでくる。彼は悲しげに笑むばかりで何も語ってはくれない。話せる時にもっと話をすればよかった。しかしすべては灰燼となってしまった。
かわいた風がふきすさぶ。風に舞った灰は、私の体に焦げ臭いにおいをうつしながら、天高く舞い上がった。秋河がかかるあの天上に、彼はたどりつくことができたのだろうか。それすらも許されていないというのならば、私はいかにして彼に会いに行けばよいのだろう。
月が輝くだけとなっていた空に雲が広がってゆく。雲は月影すらも隠してしまった。すべてが終わったのだと思った。私の世界はもう二度と輝くことはないだろう。それが私のさだめなのだ。闇をうつした身で生まれ落ちた時から、すべては決まっていたのだ。私は光をもとめるべきではなかった。こんなに苦しむことになるのならば、喜びもだれかを愛おしいと思う心も、求めはしなかったのに。世界はどうしてこうも美しく、残酷であるのか。非情の裏にある世界の美しさにまどわされることがなかったならば、私は醜い自己を発見することもなく、ただの世界の塵として一生を終えていただろうに。
涙がとめどなくながれる。その涙さえも、清らかさはひとかけらもなく黒々とにごり、それは地面にしたたって、あたりを満たす闇より深い漆黒の染みをつくった。闇の内ですら、私は異質なのだと思った。私は一体どこに居場所をもとめればよいのか。
寒々とふく風は、もうあの花びらを運んできてはくれなかった。
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