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木の実は小さく甘い香りを放ち、たくさんの動物や昆虫の命を気が遠くなるくらいの時間ずっと紡いでいた。
ここは名も無い島。
勿論、ここにいる動物たちは誰も名前を持たない。
人間が足を踏み入れたことのない世界。
おそらく、ヒトはこの場所を『楽園』と呼ぶだろう。だが、ここはヒトが足を踏み入れたことが無いからこそ、楽園なのかもしれない。
プロローグはあったのだ。
何年もの間、常夏の島は暑すぎる日が続き、それは徐々に島の精気を奪って行った。
少しづつ、少しづつ、少しづつ、森が狭まり、草原は枯れ、砂浜は増大していく。
それは、何代かの命の交代と共に緩々と命が奪われて行くようで、誰も気づかない。
だが、二本の木は動物たちの一生と共にそれを見ていた。
そして、未来に起こるかもしれない命の終焉を悟っているかのように、二本の木はより一層広く高く競うように枝を伸ばし、その姿はまるで葉先まで魂を宿したかのような存在を放った。
やがて…
寂びれてしまった森を出ると、昔あった草原は無くなり、浜辺がすぐそこまで来ていた。
豊かだった果実は実をつけなくなり、新しく生まれた動物たちは浜まで出て行く習性を忘れ、ただ木陰で苔を食べながら一生を過ごすようになった。
彼らは島に何が起きているのか知らない。
知るすべもない。
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