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もう別れよう。そう決意して何日も過ぎたけれど、結局言い出せないまま季節は秋になってきてしまった。
秋には付き合い出した記念日があるから。
九回目の記念日。三の倍数の月とか年には別れたりが多いって聞いたことがあるけれど、人の心の周期か波形か、根拠は知らないけど。
九回目ということはつまり私は二十九歳で、よくまぁそれだけ付き合ってるなと、自分を尊敬する。自画自賛でもしないと気持ちが落ちていくから。
いや、九年も付き合えたならこれから先も大丈夫っていう気持ちはある。未遂はあるけれど浮気はないし、誕生日も記念日も一応覚えてくれている。あのだらしないヤツがそうなんだから、私に気持ちはまだあるんだろう。
お盆に実家に帰った時。ついに結婚について具体的に親に言われた。
まだ結婚しないの?
そんなの私が聞きたいわ。
だから聞いてみたけれど、それはもう分かりやすく、いやそーな顔で、めんどくさそーに、のんべんだらりとはぐらかされた。
分かってたけれど、分かってたけれど、ひょっとしてとか考えてた自分が情けないやら悲しいやら。
だって来年には三十になる。適齢期の範囲内かも知れないけれど九年だし、結婚した同級生も両手の指じゃ足りないし、焦りも無いことはないのは仕方ないでしょう。職場の後輩も寿退社したし!
つまり、自分の心境的に、節目なのかなと悩んでるわけだ。そうなんですよ。
ベッドの上。茶色のライト。マグカップにはブラックコーヒー。自分的悩みスタイル。
まずは悪い要素を頭の中に並べる。
部屋が汚い。服装が基本だらしない。お金にルーズ。愛想が悪い。ギャンブル好き。女友達が多い。寝起きが悪い。デートプランを立てない。咄嗟に嘘をつく。メールがそっけない。貯金はあまりない。仕事も安定しない。他多数。
……これ、ダメじゃない? コーヒーは苦い。
気持ちが別れる側に寄ってきたところで、一応良い要素も並べる。
記念日やイベントは欠かさない。しっかりデートの時はちゃんとした身だしなみ。私にお金を借りないたからない。会話が面白い。料理が上手い。何故か保険はちゃんと入ってる。ちゃんと好きと言葉にする。キスが上手い。……私のことを理解してる。他多数。
んー……顔が思い浮かぶ。会いたくなる。
と、スマホに着信がある。
ほら、こういうところだよ。なんでわかるんだろ?
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