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こけむした木の側で、けまりを楽しむ四人の男女、それに混じって、一匹の犬がたまをおいかけるようにじゃれている。その犬は、牙が口角からはみだすほどの長さと鋭さがあり、一目で、普通でないとわかる。
その犬は、あやかしであった。
その姿を、瞬は、ほうけたように見つめる。
日月国西国中部、城島(きじま)。その中心街から少しはずれた地、御統(みする)という長屋街で、瞬は両親と暮らしている。西国は、あやかしに対する思想が変わっていて、敵視しないどころか、仲間とみなすものさえおり、こうして子供の遊び仲間に加わることもある。反対する者がいないわけではないが、他国に比べれば、あやかしの地位は、格段に上だ。あやかしも、それを知ってか、西国に流れこんでくる気もある。瞬も、あやかしを友と見なす側だが、自分は、ただそれだけであやかしを認めているだけではない気がしている。それがどういった感情かは説明できないが、自分は、その理由をいつか知ることになるだろうという確信だけはあった。
「おう、瞬さんよ。聞いてるか?」
黒髪を後ろで結わいて申し訳ていどの長さにたらした歳のころ十四、五程度の少年が、瞬に話しかける。
「え?何、真?」
瞬はほうけた顔で真という少年に応じる。
「瞬、お前またでかくなったんじゃねえか?」
「そう?」
瞬は、きょとんとした顔で問い返す。
「つか毎日目に見えてでかくなってんぞ?お前ホントに人間か?」
真が、けげんな顔をして無遠慮な問いをぶつける。
「ひどいよ、真。父上も母上も人間だよ。なのにどうしてなのか、僕の方が知りたいよ。もしかしたら、病気かもしれない…」
そう言って、瞬はうなだれる。
「そりゃ、悪かったな。でもよ、このままいったらお前、早々にじじいになって、ぽっくりいっちまうんじゃねえか?」
「そんな…」
真の言葉に、瞬は目をうるませる。
「泣くなよ、瞬。お前はすぐ泣くんだから。そんなんだから病魔にとりつかれちまうんだ」
「何とかしてよぉ…!」
「だからまずは泣きやめって。俺の親父にみてもらおうぜ」
真はそう言って瞬の手をひき、自分の家に向かった。
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