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真の家への道中、二人は、黒猫をいじめている少年にでくわした。瞬はすかさず黒猫をすくいあげ、少年に向かって言った。
「だめだよ、こんなことしちゃ。いらいらしてるなら、本を読むとか、体を動かすとかして解消しなよ。やつあたりはだめだよ」
「うるせえ!この落ち武者!」
そう吐き捨てるように言って、少年はその場をかけさった。しかし、その際、通りかかった武士にぶつかってしまう。
すみませんと言い切る前に、少年は、武士にきりすてられてしまった。
瞬は、それを呆然と見ていることしかできなかった。しかし、父親のそばで人の死を多く見てきたためか、真は冷静だった。
「因果応報というやつだな。だがここで見殺しにしたら、人道にもとるし、悲しむ人間をつくっちまう。まだ助かるかもしれねえから、親父を呼んでくる。それまで傷口をおさえていてくれ、瞬。」
真の言葉に、瞬はかろうじてうなずくと、傷ついて動けない黒猫をその場にねかせて、少年のもとへ走る。そして、そでを引き裂いて傷口にあて、きつくおさえる。
半刻もせず、紫翠がその場にかけつけ、見分する。
「助かりますか?」
震える声で、瞬がたずねる。
「わからぬ。しかし、手はつくそう。真、手伝ってくれ」
「おう」
「じゃあ、ぼくはねこさんの方をみてるね」
そう言って瞬は、傷ついたねこにかけより、かいほうしようと手をのばすが、指をかまれてしまう。
「いたっ…」
瞬が声をあげて身をひくと、かまれたゆびさきからねこの傷に血がたれ、みるまにその傷がふさがり、折れた足ももとどおりとなり、ねこは、鋭くひとなきして走り去ってしまった。
それを遠くから見ていた紫翠が驚きの声をあげる。
「どういうことだ?瞬どの、何をしたのですか?」
「分からない…」
瞬は、呆然と傷を受けた場所を見つめる。しかし、その時にはもう、傷口はなく、ちのりだけがこびりついた状態だった。
「こちらは間に合わなかった」
紫翠が失意の声をあげる。
「そんな…」
瞬は愕然としたが、自分がねこにしたことに思いいたり、もしかしたら、と思って少年のもとへかけよる。
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