キラキラ

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2年後、ついに待ちに待った日がやってきた。世間が成人式の乱痴気騒ぎを報道するようになる頃、あたしは20歳の誕生日を迎えた。法学部の教授と「名前の変更」の話をしたら「20歳過ぎれば親の許可無しで出来るよ」と言われたので即刻家庭裁判所に行き名前の変更の申立てをした。実は15歳過ぎれば出来たらしいのだが未成年の場合だと親の同意と言う嘆きの壁並に高いハードルが発生する為に厳しくなるとの事だった。 申請書に自分の名前の変更理由を書く時はこれまでの名前を馬鹿にされてきた思い出が走馬灯のように蘇り目頭が熱くなったがそれと同時にあたしを呪縛してきた名前と別れられる嬉しさの気持ちもあった。 「申立人は大学二年生の女子です。戸籍上はキララとなっています。その奇妙な名前のせいで周りの好奇の目に晒され陰鬱な日々を送ってきました。今後の就職を考えると社会生活上、戸籍上の名前では不便ですので、変更の許可を得たくお願い致します…… っと。こんなもんか」 あたしは裁判所のホームページの記入例に倣った申請理由を口に出しながら書き記した。数週間後、許可の書類が届き役所に届け出をすることになった。父親には連絡しなかった、言った所で喧嘩になるのが関の山だと思ったからだ。 「新しい名前どうしようかな」 RPGの主人公を決める時にも数時間は悩むあたしは自分の新しい名前を決めるのに何週間も悩んだ。姓名判断なんて占いを信じる気になれないし、かと言って凝った名前をつける気にもなれない。考えた挙げ句に響きが良くシンプル・イズ・ベストと言う事で平仮名で「さやか」にする事にした。 「これであなたは蒼井キララさんから蒼井さやかさんになりました。新しいお名前の方こちらで間違いないですね?」 いかにも税金泥棒と言った感じの狸親父の市役所の受付があたしに問いかける。ああ、こんな感じの税金泥棒が始めにキラキラネームを申請された時に断固として拒否しておけばこんな事にはならなかったろうな…… あたしはつい怒りがこみ上げ奪い取るように書類を受け取ってしまった。ごめんなさい、あなたに恨みは無いんです。 大学、免許、クレジットカード…… 自分の名前の変更の手続きは色々あったのだが明日から順々にやればいいやと思いそのまま家に帰った。
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