9話  神に仕えし教団

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9話  神に仕えし教団

「強情ですわねぇ姫様ぁ……」 「セリアさんこそ……、そろそろ嫌気が差して来たんじゃないですか……」  セリアとメリュジーヌは小一時間ほど同じ会話を続けていた。  セリアの望む答えを強要する訳ではないが、どう見ても結婚を嫌がっているのにそれを言葉にしないメリュジーヌ。  互いがいい加減疲れて来たところで、応接間に騎士クロムがやって来た。  暗い顔をしているウェイブも一緒だ。  どうやら試験が終わったようだ。 「結論から報告すると……。不合格……と言うことになるかな……」 「え! 何でよ!? 絶対合格すると思ったのに!」  申し訳なさそうに答えるクロムにセリアは詰め寄った。  経験豊富なヴォルドゥーラにも才能があると言われていたのだ。 「いいよセリアちゃん……、分かってたんだよ僕……」  そう言いながらも酷く落ち込んでいるウェイブ。  そんなウェイブを励ますように語りかけるクロム。 「い、いや誤解しないでくれウェイブくん! 座学も剣技も素晴らしい! 特例措置を取るという訳にはいかなかったが、先程言った問題点を解消出来たなら……。来年には必ず合格するよ! 断言出来る!」 「うん? どういう事ですか?」  素晴らしいなら合格で良いんじゃないかと思うセリア。  だがどうもそんな簡単な話しではないらしい。  そもそも騎士見習い採用への最低条件があったのだ。  まず騎士養成所に通っている事……  そして十五歳以上であること。  国王の計らいであるのなら、この二つは特例措置で免除する事は可能であった。  しかしウェイブに致命的な欠点が見付かったそうだ。  それは…… 「体捌きや剣舞は十四歳とは思えないほど素晴らしかったのだが……。模擬戦でね、防具を付け、安全に配慮した木剣であっても、人に打ち下ろす事が出来なかったんだ……」  クロムの言う通り、ウェイブは昔から人を傷付ける事が出来なかった。  その純然たる優しさが致命的となったのだ。  国を守り、魔物、時には人間とも争わねばならない王国騎士……  いくら国王の推挙であっても、戦えない者を騎士にする訳にはいかないのだ。 「僕……来年までに克服出来る気がしないよ……」  床とにらめっこするウェイブのみならずセリアにピロ、クロムまで我が事のように肩を落として暗くなっている。  その様子に何か出来ないかとあたふたするメリュジーヌ。 「な……ならば教団直属の聖騎士などどうでしょうか? わたくしも退魔神官としてお世話になっております。評価基準が多々あるそうですし……。可能性を重要視すると聞いた事がありますわ。なんでしたら今すぐにでも教祖シャマシュ殿に掛け合ってみますが……」  メリュジーヌは落ち込んでいるウェイブ達に慌てたように進言した。  悲しそうな空気を纏うウェイブ達を見てられなかったのだ。 「そ、それは良いお考えですね! 教団に認めてもらえれば王国騎士に取り立てる事もより簡単になります!」 「そんな……でも……、僕なんか……」  クロムがその話しに乗って焚き付けるも、ウェイブの心はすでに折れていた。  床に膝を付いて落ち込んでるウェイブの頭をピロが撫でている。 「ではさっそく行きましょう! クロムさん! 姫様! 案内をお願いしますわ!」  セリアはクロムとメリュジーヌに案内を頼み、ウェイブの腕を引き教会に向かった。  ウェイブの意思など当然のように無視である。  ーーーーーーーーーー  馬車を出してもらい、レイルハーティア教会に到着した一行。  城かと見紛う程に大きく立派な建物がセリア達の前にそびえ立つ。 「ほへぇ~立派な建物ね~。そういえば姫様もお世話になってるって言ってましたっけ?」 「ああ、姫様もここで退魔神官の修練を積んで居られるのだよ。一年前にアズデウスから婚約の申し出があった時からかな? 気落ちしていた姫様を見かねた教祖シャマシュ殿の薦めでね」  セリアの問いにクロムが懇切丁寧に教えてくれた。  当時のメリュジーヌ姫の様子は今より酷かったようだ。  メリュジーヌ姫がここまで持ち直したのも、その厳しい修練のおかげらしい。 「退魔神官?」 (心と身体を一体にする修練を積んだ魔払いの者だ。簡単に言えば邪気を払い、その身を高める神聖術を行使し、魔物や悪魔を倒す存在だな) 「へぇ~、カッコ良いわね! 私も……」 (飽きっぽいセリアには無理だ)  セリアの新たなる夢を言葉にする前に潰しに来るヴォルドゥーラ。  セリアは頬を膨らませてふてくされている。  さっそく教会に入り、その一室にてセリア達は教祖シャマシュに事のあらましを伝えた。 「なるほど……、話しは分かりました。見れば並々ならぬ素養を感じさせる少年です。ウェイブ君の聖騎士採用審査、引き受けさせてもらいましょう。恐れながら心の問題でしたら、王国騎士団の方々よりも我々の方が力になれると思います」  若くして教団の代表を勤める男性教祖シャマシュ。  まだ二十代と思われるが、その佇まいは威厳と風格に溢れている。  教団の保有する神の力に呼応したメリュジーヌの推挙というのも大きいのだろうが……  ウェイブに将来性を見い出した教祖シャマシュは、この件を快く引き受けてくれた。 (この男……悪意は感じないが相当大きな魔力を持っているな……) 「そういや魔力って?」  ヴォルドゥーラの呟きに反応するセリア。  以前聞きそびれた事を思い出したのだ。 (魔力とは簡単に言えば魔術を行使する為の燃料だ。人間は魔力を持たない。精神力などを魔力に変換する道具が必要だ。俺を持つセリアや、神の力とやらを持つメリュジーヌのように、こいつも何か所持しているのだろう) 「へぇ~。」  ヴォルドゥーラはよく分かって無さそうなセリアを放って置き、再びシャマシュに注目した。  何か所持しているはずだ……。途方もなく強力な魔導器を……  出なければ、こんな膨大な魔力を有する人間など居る訳がない……  ヴォルドゥーラはそう考えつつも、すぐに気にならなくなっている事に疑念を持った。  まるで思考に霧がかかったかのように……  話しがまとまり、ウェイブはさっそく審査準備の為、シャマシュに連れていかれた。 「ここまで来たのだから、私はウェイブくんの付き添いをさせてもらいますよ」  クロムはウェイブの試験を見届けるようだ。  姫をいつまでも拘束する訳にもいかないのでセリアとピロ、メリュジーヌは馬車で城に戻るように促された。 「つまんないの~」 「申し訳ありません……。私がいるばかりに……」  セリアの何気無い言葉にうつむき暗くなるメリュジーヌ。  失言に気付いたセリアは慌てて弁明に入る。 「いえいえごめんなさい! 違いますって! メリュジーヌ様のせいではなくてですね! そ、そうだ! 私今日どこに泊まれば良いのかしら! だ、誰に聞けば良いんですかね?」  取り繕うセリアは咄嗟に今日寝泊まりする場所が無い事に思い至った。  メリュジーヌは思い出したかのように両手を合わせる。 「そうでした、先程お父様も言い忘れていましたが、宿を取っているのでした。魔王殿の名前で登録しているらしいのですが……。ちょうどこの辺りだと思うので確認しに行きましょう」  メリュジーヌの指示で宿に向かう馬車。  宿屋前に到着し、馬車を引く騎士には宿の前で待機してもらいセリアとピロ、メリュジーヌは馬車を降りる。  そこに宿屋前で猫を撫でていた小さな少年が近寄って来た。 「いらっしゃいませー。うちのお宿空いてるよー」  歳は五つか六つくらいだろうか……  どうやらこの宿の客引きをしているつもりのようだ。 「あら、お手伝い? 感心ね」 「うん! タンタルも一緒におかあさんのお手伝いしてるの!」  セリアが褒めると少年は近寄って来た縞模様の猫を抱き上げて見せてくる。  タンタルとは猫の名前のようだ。 「にゃー」 「あら可愛い。じゃ今日はここで宿を取ろうかしら?」 「やったー」  猫の鳴き声を聞いたセリアは予約を取っているというのに、満面の笑みで答えた。  少年は猫を掲げ、大喜びで跳び跳ねている。 「ねこ……さん……」  そっとタンタルの頭に手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めるメリュジーヌ。  どうやら猫に大層興味がある様子。  セリアの背中に隠れ、猫をガン見しているのだ。
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