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12話 神の子
受付の女性の後に連なり、ぞろぞろと橋から離れる人々。
いまだ泣いているメリュジーヌは立ち竦み、その場から離れようとしない。
「セリアさん……。わたくし……わたくしは……」
「もう泣かないでください。少し行き違いはありましたが、この国は姫様の味方のようですよ? もちろん私だって……」
「キュ! キュー!」
涙を流し震えているメリュジーヌにセリアは優しく言葉をかける。
もちろんピロも味方である事を主張していた。
「わたくしは……、あの人のお嫁になんてなりたくない……。この国に居たい……。この国の人々と一緒に……、貴女と……一緒に……」
メリュジーヌを再度抱き締めるセリア。
その言葉を待っていたとばかりに力強く。
「分かったわ……。それで良いの……。私が全力で協力するわ! あんなクソ皇子になんてやるもんですか!」
(はあ……、そう言う事なら俺も協力するか……。力付くで従えるってのは正直気に入らんしな)
セリアとヴォルドゥーラは本格的にこの一見に関わる決意を固めた。
メリュジーヌの真意は得たのだ。
作戦など検討も付かないがそれでも……
方向性は決定した。
意地でもメリュジーヌを渡さないと。
「とりあえず姫様をお城にお送りしないと……。あ、ついでにウェイブくんの様子も見に行きましょうか?」
セリアは少しだけ気が晴れた事でウェイブの審査を思い出した。
泣きじゃくり、もはや言葉も出ないメリュジーヌはその提案にコクリと頷き了承する。
ーーーーーーーーーー
馬車をそのままにも出来ず、ずっと待っていた騎士。
姫の心配で胃を痛くしていたであろう騎士に、更に無理を言って教会前まで連れて来てもらったセリア達。
「そういえば教会の聖騎士って王国騎士より強そうな響きですよね?」
「そうですね……。実際純粋な戦闘面では王国の騎士より大分お強い方々が揃っていますから……」
「なるほどぉ……」
セリアの質問に対するメリュジーヌ曖昧な返答。
メリュジーヌの立場上、明確には言いづらいようだが、要するに聖騎士の方が強いのだろうと納得するセリア。
「うーん……、王国騎士の試験なんかに落ちちゃったのに聖騎士なんてやっぱり荷が重いかしら……」
(悪い癖だな、セリアは仕事を舐め過ぎだ……。そんな思考に至った事を後で謝るべきだな。腕っぷしの強い弱いが必ずしも素晴らしい人間じゃないぞ? 連携、統率性、街の警護に仕事に取り組む姿勢。おまけに町民に対する気配り……。この国の騎士は俺から見ても評価に値する)
小声でウェイブを心配するように呟いたセリアを、ヴォルドゥーラは長々と叱責する。
いい加減仕事に対する考え方を変えさせないと、本当に将来の夢どころではないのだ。
セリアがお説教を受けながら歩いていると、教会の入り口でクロムと出くわした。
「あ、セリアちゃん! メリュジーヌ様! どうしてお戻りに?」
城に戻ったはずの姫が教会に居ることに驚くクロム。
半ば空気と化していたピロがクロムに向かって突進した。
「キュー! キュー!」
「ごめんごめん、ピロちゃんも忘れてないよ」
クロムの足をペシペシと叩きながら怒るピロ。
クロムは困ったように弁解をしている。
「少し寄り道をしていまして……。今から城に戻るのですが、ウェイブさんの様子が気になりまして……」
「結果の確認に来たと言うわけですわ! あとクロムさんごめんなさい!」
心なしか先程よりも明るいメリュジーヌとセリア。
ついでに何故か急に深々と頭を下げて謝罪するセリアに困惑するクロム。
「そ、そうでしたか……。いや、ちょうど良かった。先程結果が出ましてね……。なんと合格したんですよウェイブくん!」
間を置かずウェイブの合格を伝えて来たクロム。
クロムはウェイブが聖騎士になれる事を自分の事のように喜んでいた。
「おお! やるじゃないウェイブくん!」
「良かった! それではこれから授与儀式ですか?」
「そうなんです! もう神託の間で行われてるはずですよ。今日は人も少ないですが部外者である私は入れてもらえませんでした……」
心配が吹き飛んだ事で喜びの声を上げるセリアとメリュジーヌ。
クロムは儀式に参席出来ない事を肩を落として嘆いている。
授与儀式。
退魔神官や聖騎士になる者は儀式として、教団の保有する神の遺物に触れる習わしがある。
これらに触れ祈りを捧げることで退魔神官、聖騎士としてのスタートを切ることになるのだ。
メリュジーヌもこの儀式を受け、その際に闘龍眼という神器に呼応した事で、神の子として崇められるようになった。
「ウェイブくんも神の子だったりして~」
「ははは、いやそんなまさか~」
セリアとクロムは他愛ない話しをしながら、神託の間の扉を少し開けて中の様子をこっそり伺った。
神託の間は何やらザワザワと騒がしい。
こちらは退魔神官たるメリュジーヌが居るのだ。
少しくらいは良いだろうと、その騒ぎに乗じて部屋に入るセリア達。
その騒がしい人だかりの中心にウェイブが居た。
ウェイブがその手に持つ美しく青い刀身の剣。
それが光り輝きウェイブを包んでいる。
その神々しさにセリア達が唖然としているとウェイブがセリア達に気付いた。
「せ……セリアちゃん……。なんか……神様の剣が光っちゃった……」
剣を掲げながらふるふると震えるウェイブ。
そこに教祖シャマシュの声が響き渡った。
「皆の者! ここに新たなる神の子が降臨された! 水竜の剣ヴァルヴェールに呼応せしお方、ウェイブ様だ!」
「「おぉぉぉぉぉぉ!」」
信者達の歓声が響き渡る中、絶句するセリア達。
渦中のウェイブも信者達の視線を浴び固まっている。
(ヴェールかぁ……。この邂逅が吉と出るか凶と出るか……。どちらにせよ……面倒な事になりそうだな……)
ヴォルドゥーラはそっと呟き嘆息した。
この物語の行く末に、一抹の不安を感じながら……
水竜の剣ヴァルヴェール。
炎魔の指輪ヴォルドゥーラ。
五つの『神器』の内、二つが揃った偶然。
ヴォルドゥーラはそれをまだ、疑う事はなかった……
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