1話  死神来訪

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1話  死神来訪

 次の日の朝。  玉座に座り、セリアとウェイブを待つヴォルドゥーラ。  どんな体勢が魔王っぽいか、色々ポーズを考えていたら突然轟音が鳴り響いた。  どうやら城門を破壊して侵入してきた者がいるようだ。  不敵に立つ魔王城には頻繁に、都の騎士や腕に覚えのある者がやって来る。  皆意気揚々と城に入って来ては、息も絶え絶えで帰って行く。  どんな屈強な戦士でも、ヴォルドゥーラの前では赤子同然だった。  最近では討伐目的より腕試しとしてやって来る者の方が多くなっていた。 「朝っぱらから来客か……。果たして今日はどんな戦利品が貰えるかな?」  ヴォルドゥーラは浸入して来た者を返り討ちにし、その後に挑戦料と称して何かしらを頂いていた。  金銭、武装、時には衣服も貰っている。  大抵の侵入者もそれが分かっているので、品を用意して軽い気持ちで訪れるのだ。  そして大きな鉄の扉を蹴破り、一人の男が入って来た。  ボサボサの金髪、大柄でボロボロの身なり、刃溢れだらけのロングソードを持った剣士。 「鍵なんて掛かってないし……、そこ……引けば開くんだが……。仕方ない……、用件を聞こうか勇者殿?」  玉座の間の扉を壊された事に衝撃と嘆きを覚えるヴォルドゥーラ。  だが、威厳ある魔王として冷静を繕い、玉座に座ったまま目の前に居る剣士に問い掛けた。 「戦え……」  男は無感情に、そして威圧的に一言だけ呟く。  口上が短過ぎる。もっと何かないのだろうか? 「腕試しか? 無謀と勇気を履き違えては早死にするぞ?」  ヴォルドゥーラは座したまま右の人差し指を宙にかざした。  現れた炎が細長い杭のような形状に変わり、男に狙いを定める。 「人体くらい軽く貫通する。その上貫通した箇所の周りは重度の火傷が残るぞ? それが嫌ならその傲慢な態度を改め……」 「早くしろノロマが」  軽く笑みを浮かべながら恫喝したヴォルドゥーラだったが……  返って来た挑発に口元をひくつかせた。  ヴォルドゥーラは仕方なく、宙に向けた指を男に向かって振り下ろす。  ただの脅し、避けられるように低速で肩口を狙った。  男に向かい飛翔する赤い槍。  男は身動ぎ一つせずに立ち尽くしている。 「な!? おいバカ! 避けろ!」  ヴォルドゥーラの叫びも虚しく、赤い槍は男に接触し、そして粉々に弾けた。  一瞬炎が上がったが、男にダメージはないようだ。 「……なんで?」 「次は俺の番だな」  すっとんきょうな声を上げるヴォルドゥーラに、男は問答無用で斬り掛かって来る。  ヴォルドゥーラは避ける事なく、その剣を炎を纏った腕で受けた。  抵抗なく腕を通り抜けた男の剣は、刀身の中間から上がなくなっている。  一瞬の隙を付き、ヴォルドゥーラは玉座から飛び退き距離を取った。 「燃やした……感じじゃねぇな……。分解か? お前中々面白い事が出来るな」  悪そうな笑みを浮かべた男は剣を捨て、なお戦意を損ねない。  むしろその凶悪な笑顔からは並々ならぬ殺気が感じ取れた。 「本気かよ……、だったらもう遠慮はしない! 後悔するなよ!」  ヴォルドゥーラは大量の赤い槍を空中に生成する。  それを男に向け、一斉に解き放った。  赤い槍は先程と同じように、全て男に接触した瞬間炎に変り弾けた。  貫通するはずの魔法が何故か、その効力を発揮しないのだ。 「あちぃな……。お前の技は宴会芸か何かか? 真面目にやれよ、おちょくってんのか?」  衣服が多少焼け焦げた程度でやはり効いていない。  その上かなり高圧的に挑発してくる男。 「ほう、ふーん……」  再度口元をひくつかせ、額に青筋を立てるヴォルドゥーラ。  ヴォルドゥーラは手の平に生み出した炎を、身の丈程もある大きな剣の形に変えていく。  炎ではなく金属の剣。美しい緋色の大剣がその手に握られた。 「俺は剣技も中々のもんだぜ! その腕……もらったぁ!」  ヴォルドゥーラは男の懐に飛び込み、脇に構えた剣を横薙ぎに振りかざした。  男の腕に当たったその剣は、まるで薄い氷で出来ていたかのように美しく砕け散る。 「わぁ~、綺麗……」  ヴォルドゥーラは何故剣まで砕けるのか? 状況に理解が追い付かなかった。  訳が分からないので、とりあえず術の散り際の美しさに見惚れてみた。  その直後、男の裏拳が顔面に当たり吹き飛ぶヴォルドゥーラ。  大きく飛ばされ壁に激突する。 「ど、どうなってんの……。こいつマジで何者だ。人間じゃねぇのか?」  強大な炎の魔法で他者を圧倒するヴォルドゥーラにとって、この状況は予期せぬ事態であった。  男はヴォルドゥーラの心境を知ってか知らずか、殺気を放ったまま近付いて来る。  ーーーーーーーーーー  城門前、約束通り城までやって来ていたセリア。  ウェイブは家まで迎えに行ったが、中々起きないので置いて来ていた。 「ここの門重いのよね~。どうせ鍵なんて掛けてないんだし開けっぱなしでも……。開いてるわね? というか壊れてるわね? 気を利かせて……いえ、そんな甲斐性ヴォルドゥーラさんにあるわけないわね」  何故か壊れて開きっぱなしの門を通り、二階にある玉座の間に向かっていくセリア。  大体いつもはカッコ良くポーズを決めて座っているか、奥の部屋のベッドで寝ている魔王。 「さて、起きてるかなヴォルドゥーラさん。あら? ここも開いてるわね」  無用心にも扉が全て開いている事をさすがにいぶかしむセリア。  様子がおかしい事に気付き、玉座の間の中をそっと覗いてみる。 「おお、おはようセリア。ちょうど良かった、俺は悪い事してないって……、こいつに言ってやってくれるか?」  扉を覗いたすぐ側、そこには大柄の男に片手で首を捕まれ、宙吊りになっているヴォルドゥーラが居た。  首を捕まれているのに器用に陽気に喋っている。 「……失礼しました~」 「待って! 置いてかないで! こいつなんとかして!」 「ひゃうわ!」  恐ろしくなり部屋から離れようとするセリア。  ふざけた様子のヴォルドゥーラは壊れた扉の余りに叩きつけられ、扉を完全に粉砕しながらセリフの後方に転がった。 「ヴォルドゥーラさん! 大丈夫!?」 「この程度な訳ないだろう? 本気でやれよ」  セリアの叫びを無視し、大柄の男は威圧的に語りかける。  服装もマントもボロボロで、無感情に語るその姿はどちらが魔王か分からないくらいだ。 「ヴォルドゥーラさんは何も悪い事してないでしょ! なんでこんな事するんですか!」 「関係ねぇよ……。ここに強い奴が居ると聞いたんでな……。戦える奴は戦え」  セリアは懸命に弁護に入るが、男の目的は純粋に戦う事だけのようだ。  非常に迷惑な戦闘狂である。 「おいセリア、やっぱ逃げとけ。お前が居ると邪魔だ」  ヴォルドゥーラはセリアに避難を促し、男に指先を向けた。  ジジジと火花が散り、突然男の目の前に爆発が起こる。   男は後ろに飛び、ヴォルドゥーラから距離を取った。 「今のはなんだ? お前が使えるのは炎だけじゃねぇのか?」 「ああその通り、だがネタバレは無しだ。セリア! 勉強は後回しだ。これ終わったら呼びに行くから家で待ってろ!」 「わ、分かったわ! 私村長さん達にも説明してくる!」  男の疑問を軽く流したヴォルドゥーラ。  セリアはヴォルドゥーラの進言を聞き入れその場から走り去った。  事情は分からないが、魔王討伐に来たのなら村の大人達が知ってるかも知れない。  状況を説明し、止めてくれるように頼むのが一番だと考えた。  セリアが城から飛び出したとほぼ同時に轟音が響いた。  城の二階の壁を突き破り、ヴォルドゥーラが城の隣にある林に飛ばされていく。  その様子に危機感を感じ、急いでセリアは林に向かった。
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