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3話 魔物退治
村外れの林道に来ているセリアとウェイブ。
林道で行き交う人を襲い、馬車のテントなどを破壊する小型の魔物コパルンの討伐、もとい林道からの退去を引き受けさせられたのだ。
すでに林道にはコパルン数匹が歩き回っている。
「ああもう! なんで私が魔物退治なんて!」
「仕方ないよ、セリアちゃんがヴォルドゥーラさんの代わりに……、なんて言ったんなら……。むしろなんで僕まで……」
「ヴォルドゥーラさんの弟子を名乗った以上はウェイブくんも一緒じゃないと! ウェイブくんも予定より早く都に行って騎士になりたいでしょ?」
文句を言うセリアを嗜めるウェイブ。
ウェイブはあまり気乗りではなかったが、ヴォルドゥーラから貰った剣を腰に差し、仕方なく着いて来た。
「さて……、それにしても意外と可愛いのよねコパルン」
「見た目に騙されちゃ駄目だよ。村の人は凶悪な魔物って言ってるし」
「村ぐるみでコパルン可愛がってるくせによく言うわよね……」
セリアとウェイブは目の前で歩き回る生物に視線を向ける。
どう見ても横幅の広い二足歩行する犬にしか見えないその生物。
つぶらな瞳に垂れた大きな耳、体長もセリア達の半分程、手も足も短く動きも遅い。
モフるために存在してるとしか思えなかった。
「村長さんの話しだとここ数日なんでしょ? コパルンが狂暴になったのって?」
「そうらしいね……」
(俺も七年住んでるが……、こんな行動を取るコパルンは初めてだな)
セリアは依頼を確認し、ウェイブは相槌を入れる。
ヴォルドゥーラにとってもこのコパルンの行動は奇怪なようだ。
普段は家畜や家に泥を塗ったり、畑の野菜を少し取っていく程度の悪さしかしないコパルン。
物を壊したり人を傷付けるなど今までなかった事である。
「とりあえず林に追い返せば良いのよね? どうせ退治って言ってもそういう事でしょ?」
(では俺の力を使う方法を教えようか。俺と波長が合ったんだ、炎を出すくらいは出来るだろう。指輪を自分の身体の延長線のようなイメージを取り、そこから大気を燃やすような……)
「こう?」
セリアに指輪の使い方を教え始めるヴォルドゥーラ。
しかし、まだ話途中でありながらセリアの手から炎が吹き出している。
(そ、そうだ、その炎を自分のイメージ通りに……)
「こうかな?」
驚いたヴォルドゥーラだったが、気を取り直して説明を続けた。
セリアは手の平の炎を丸めて火の玉を形作り、その火球をコパルン目掛けて投げ飛ばした。
見事火球は直撃し、コパルンの尻尾に軽く火が付き地面を転がっている。
「おお~! やった!」
(天才かよ……)
思わず歓喜の声をあげるセリア。
ヴォルドゥーラもセリアの感性を素直に称賛した。
「セリアちゃん凄い! いつの間にそんな事出来るようになっちゃったの?」
「ふふん! まぁこの指輪の力だけどね。ヴォルドゥーラさんの力をちょっとだけ使えるみたい。何ならウェイブくんも使ってみる?」
その様子を見ていたウェイブが目を輝かせている。
セリアは口の端を上げ、両手を腰に付け偉そうにふんぞり返る。
(ある程度の精神の強さと波長が合わないと使えないぞ。少なくともウェイブが俺を着けても起動はしない。むしろ俺は何も感じられなくなるからやめてほしい……)
「あらそうなの? とりあえず私専用らしいわよ。残念ねウェイブくん」
「え? う、うん……。どのみち僕には使いこなせないよきっと」
ヴォルドゥーラの言葉を聞いてセリアはそのままウェイブに流した。
何やら不思議そうに返答するウェイブ。
セリアはそれに気付かず、自分が炎を操った事に興奮している。
「それにしても凄いわね! 私、都に行って宮廷魔導士になるわ!」
(医者はどうした!?)
「お医者さんになるんじゃなかったの!?」
さっそく新たな職業を視野に入れ、ガッツポーズを取るセリア。
ヴォルドゥーラ、ウェイブは同時にツッコミを入れた。
「二人同時に叫ばないでよ……。うーん医者はなんか面倒そうだからもう良いわ!」
「面倒って……、セリアちゃん……。お仕事って大体そうだよ? それと二人って誰?」
「え? ウェイブくんとヴォル……」
(待てセリア!)
いつもながら適当なセリアを遠回しに叱責するウェイブ。
そしてウェイブの意味不明な言葉にセリアが答えようとしたところ、ヴォルドゥーラが食い気味に制止して来た。
(俺の声は現在お前にしか聞こえていない。あの死神みたいな奴にまた遭遇しないとも限らないしな。しばらくはウェイブにも黙っておこう)
(何よそれ! 早く言ってよヴォルドゥーラさん! 私危うく一人でブツブツ言ってる危ない人になるところだったじゃない!)
「セリアちゃ~ん!」
ヴォルドゥーラとひそひそ話しをするセリア。
すでに大分手遅れな事には気付いていないようだ。
その手元に話し掛ける痛い少女に、横に居るウェイブの悲痛な声が聞こえてくる。
「この子達ひどい~!」
ウェイブはコパルン数体にしがみつかれ、ポカポカと叩かれていた。
まだ戦闘は続いていたのだ。というか今始まったのだ。
「え、話しと違うじゃない! ちょっと威嚇すれば逃げるって聞いたけど……。この子達やる気よ?」
臆病と聞いていたセリアは想像より気概のあるコパルンに驚いた。
しかし魔物とはいえ、見た目は可愛いワンちゃん。
ウェイブも斬りたくないのだろうし、セリアも出来れば傷付けたくないと思っていた。
(こいつら随分強気だな。俺の時は少し脅したらそそくさと逃げてくのに。お前らなら勝てると踏んだかな?)
「ほっほぅ……。良い度胸だわ!」
ヴォルドゥーラの話を聞き、舐められてる事に思い至ったセリア。
ここに、セリアとウェイブ対コパルン戦が幕を上げた。
「キュー! キュー!」
続々と援軍に来たコパルン達をボコボコにするセリア達。
といっても、張り付いたコパルンを引き剥がし、地面に勢いよく転がす程度。
叩いて来たら軽く叩き返すという子供の喧嘩である。
十匹辺り地面に転がした所でコパルン達は降参した。
地面に転がったまま泣き始めたのだ。
「はぁ……、はぁ……、可愛らしく泣いてんじゃないわよ! これに懲りたらもう悪さするんじゃないわよ!」
「セリアちゃん……、僕たちもボロボロだよ……」
(コパルン……、意外に根性あるな)
息も絶え絶え、服も泥塗れのセリアとウェイブ。
ヴォルドゥーラは初めて見るコパルンの奮闘を讃えていた。
言われた事はやったとばかりに、その場を後にしようとするセリア。
その足にコパルンの一匹がすがり付いて来る。
他のコパルンより一回り小さい。
おそらくは子供のコパルンだろう。
「まだやろうってのワンちゃん……」
セリアはコパルンを睨み、手の平から炎を吹き出させて威圧する。
子コパルンはそれに怯えながらもセリアの足を引っ張り続けた。
「キュー……キュー……」
「な、何よ! そんな潤んだ目で見上げてこないでよ……」
可愛らしくも悲しげなコパルンの表情。
セリアは情にほだされそうな心をギリギリで押さえている。
「これって……、着いて来いって事なんじゃ……」
「え? 何? どこによ?」
ウェイブの呟きに疑問を感じるセリア。
確かに良くみると林に引きずり込もうとしてるようにも見える。
他のコパルン達はすでに林に戻ったようだ。
「なるほど……、罠ね。良いわ、コイツらの親玉にガツンと言ってやるんだから」
「ええ~もう帰ろうよ~!」
セリアはもはややる気のないウェイブを無視し、子コパルンに着いて行く事にした。
仕方なくウェイブもとぼとぼと後に続いて来る。
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