6話  都の花

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6話  都の花

 ベルフコール王国首都に向かう馬車。  馬車馬を駆る騎士と馬車に追従する騎士。  そして馬車の中にはセリアとウェイブが並んで座り、ピロはセリアの膝の上。  対面には一人の騎士が座っている。 「首都に着いたらそのまま城に向かう。国王陛下直々の依頼らしいのだが……。なんでもその席に姫も参席するらしい。くれぐれも粗相のないようにね?」 「「はーい!」」 「キュー!」  騎士の言葉に右手を上げて元気良く答える三名。  返事は相手の目を見て元気よく。ヴォルドゥーラ先生の教えである。 「王様にお姫様か……。きっとカッコ良い王様に綺麗なお姫様なんだろうね……。僕今から緊張してきたよ……」 「王族に期待しちゃいけないって、ヴォルドゥーラさんが言ってたじゃない。それにお姫様が可愛いとは限らないわよ」  目を輝かせ期待に胸を弾ませるウェイブ。  そんな期待をセリアは全力で壊しにかかる。 「ははははは、大丈夫。陛下はとても素敵なお方だよ。聡明でとてもお優しい。メリュジーヌ姫様も大変美しい方だ。私が言うのも変だが期待して良い」  騎士は笑いながら自信たっぷりに言い切った。  ここまで言うなら身内の欲目とも言い切れないだろう。 「へ~、王子様はいらっしゃらないのかしら?」 「メリュジーヌ姫の弟君で、今年十三になるギーブル王子がいらっしゃるよ。まだ幼いが陛下に似て凛々しいお方だ」  何の気無しに聞いたセリアに騎士は王子の存在を明かした。  セリアは含み笑いを浮かべ、口元に指を添えて考え込む。 「一つ下か……、弟君に取り入って私が姫になるのも良いわね……」 (なんか言い出したぞ……) 「国を作るより、このベルフコール王国を手に入れた方が早いじゃない? 姫なんて可愛く笑ってれば良いんでしょ? ちょろいわ」  国を守る騎士の前で、堂々と国の乗っ取りを企むセリアにヴォルドゥーラは呆れている。  セリアはとても悪い顔で笑顔を作りながら、ヘラヘラと妄想の世界に入っていた。 「「ははは……」」 (そんな邪悪な笑顔作るお姫様やだなぁ……)  騎士とウェイブは何も言えず、ただ困ったように空笑いをしている。  ヴォルドゥーラはセリアがいらぬ無礼を働かないかと心配が募って来ていた。  ーーーーーーーーーー 「さあ、着いたぞ。ここがこの国の首都、エントリバースだ」 「うわぁ……」  馬車を引く騎士が首都到着を知らせてきた。  ウェイブは馬車から身を乗り出して街並みを見渡す。  ところ狭しと建物が建ち並び、お洒落な服装の人々が行き交う光景。  水と緑の街と呼ばれるエントリバース。  日々覇気のない人々がダラダラと暮らすフィル村とは活気が違った。 「セリアちゃん! 凄いよ、ほら!」  ウェイブが呼び掛けるも、セリアは膝に乗せたピロに頭を埋めて眠っていた。  ついでにピロも熟睡している。 「セリアちゃん! ピロ!」 「ん、何よ……、おやつは茹でた人参で良いわ……。塩かけといて……」  必死に呼び続けるウェイブの奮闘も虚しく、セリアは少しだけ顔を上げ、寝言を呟いた後にまた顔をピロに埋めた。  ウェイブは諦めずに寝ぼけるセリアの肩をは揺さぶる。 「着いたよ! 凄いよ! 都だよ!」 「ん~? …………なんですってぇ! 早いわね!」 「キュ~……」  ウェイブが都という単語を発した途端、瞬時に顔を上げて覚醒するセリア。  主人の起床と共にピロも起きたようだ。  フィル村から馬車で数時間、セリアとピロは殆ど寝ていた。  ウェイブなど緊張で昨日も満足に寝れていないというのに。 「は~、ここが都かぁ……」 「人が沢山居るよ……」 「キュキュー!」  セリア、ウェイブ、ピロは馬車の窓から身を乗り出し、興奮気味に街の景観を眺めている。  三名が身を乗り出す事で馬車が傾きそうな勢いである。 「城までもう少しあるからね。退屈だろうがもうしばらく我慢してくれ」 「「はーい!」」 「キュー!」  馬車の端に張り付き、バランスを取ろうとする騎士に再び元気良く返事をするセリア達。  退屈ということは全くなかった。  セリア達にとっては外を眺めているだけで楽しいのだ。 「あら? あれは何かしら?」 「石の人形……かな? なんかこの街に合ってないというか……」 「気味が悪いわよね……」  セリアとウェイブは通りにポツンと立つ、人よりは少し大きめの石の彫像が気になった。  セリアは明らかに街の景観を損ねるような怪しい物体に不満を洩らす。 「あ、ああ……あれはね、同盟国であるアズデウス帝国からの贈り物でね……。有事の際……、万が一魔物が街に入って来た時なんかに戦ってくれるんだよ……」 「動くの!?」 「凄いわね!」  騎士が口ごもりながら説明すると、ウェイブもセリアも大興奮で石像を凝視した。  あんな石の人形が動いて戦力になると言うのだ。  都会はロマンで溢れている。 (ゴーレムが……、贈り物だと? ということは自動制御か……。こんな物を街中に配置してまともに制御出来るのか? ……なにやら焦臭い事になってきたな……)  ヴォルドゥーラが今回の依頼に一抹の不安を抱いていると、セリア達の乗る馬車が突然急停止した。  身を乗り出していたのもあって、窓からセリア、ウェイブ、ピロが落ちそうになっている。 「どうした! 何かあったのか!」 「いやすまん、少し待ってくれ。どうやら姫を乗せた馬車が通るようだ」  馬車内と手綱を握る騎士が言葉をかわす。  王族の前を走るのは礼儀として避けたいようだ。 「さっき聞いたこの国のお姫様ですか?」 「ああ、我が国の王女、メリュジーヌ姫様だ。ああして時々教会や街の者にお姿を見せにいらしているんだ」  姫に反応したセリアに騎士が答える。  姫の乗った馬車に道を譲り、セリア達の乗る馬車を横切る瞬間……  窓越しに見える馬車の中の少女に目を奪われるセリア達。  整った顔立ち、長く美しい銀髪、儚げでいて嘘のように気品漂う美少女。 「わぁ……綺麗……」  ウェイブは馬車が過ぎ去った後も、メリュジーヌが通った空間を見つめながら固まっていた。  セリアは乗り出していた身体を馬車に戻し、茫然としながらも口を開く。 「ウェイブくん……。私、お姫様になるの止めるわ」 「早いね! どうしたの? 最短記録更新だよ?」  硬直が解け、首だけセリアに向けて言い放ったウェイブ。  セリアの将来の夢、撤回最短記録は手品師である。  一時間で飽きたのだ。 「あんなの見て育った王子なんて落とせる訳ないじゃない。なによあの反則的な美少女は……。同じ生き物とは思えないわ。むしろ拐いたいわ。私魔王になろうかしら……」 「我々の前で物騒な事を言わないでくれ……。これでも国と王族を守る騎士なんだが……」  あっさりと夢を手放したセリア。  なれないなら奪ってしまえ的な恐ろしい発想に王国騎士は狼狽えていた。
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