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「店の客に聞いたって言いやがった。俺と朝子が仲がいいのを知ってる客って誰だよ。俺の知ってる奴か?って笑いながら聞いたら、引きつった顔して『知らない人よ』ってさ。」
「……」
「今、違うタバコ屋で働いてんだ。あそこは、わざと歌が忙しくなって辞めるっつって言った。」
「…店長ね?」
「そ。あれだけ店に通ってたら、まあバレちまうよな。」
そういえば店長は言った。
野田さんの奥さんの美容院は、お得意さんだと。
何度か店長と二人で写真を撮ったこともあるし、顔が知られてても不思議じゃない。
「…あの男には会ってるのか?」
「会ってないわ。」
「そうか…」
離れるのがイヤだった。
今日、ここで別れたら…また次はいつ会えるか分からない気がして。
「これ。」
帰り際、野田さんが携帯を差し出した。
「…どうしたの?」
「うち、携帯の払いは別々だからバレねーよ。もっと早くこうすれば良かった。」
「…払わせられないよ。」
「これぐらいさせてくれ。」
「……」
どんな手を使ってでも、野田さんを手に入れたい。
幸せになりたい。
そう思っていたのに。
急に。
本当に急に、ここまでして不倫を続ける事が虚しくなった。
「野田さん。」
「ん?」
「愛してるって言ったけど、奥さんとは別れるつもりはないのね?」
「……今日はそんな話はやめよう。」
「あたし、無理。」
「……」
「あたし、幸せになりたいの。誰かの愛人とかじゃなく、ちゃんとした妻になりたい。」
泣かないで、あたし。
「園と結婚するわ。」
「朝子…」
「さよなら。」
車を下りる。
めまいがしそうになった。
あたしは野田さんを幸せにしてあげられない。
一緒にいると、いつか出てくる欲で、野田さんを 奪いたくなる。
そのたびに、お互いが辛くなる。
もう、解放してあげるべきなんだ。
あたしは、亮太の時も野田さんの時も、潮時ってものを見過ごしていた。
ううん…気付かないフリしていた。
その結果が、これ。
あたしは男を不幸にする。
忘れる。
あの腕も、あの声も。
あたしのものにならない人。
一緒にいたって、無駄だ。
無駄。
そう思えばいい。
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