第九章

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「あいつ、あれだろ?歌ってる奴だよな。」 「…知ってるの?」 「ま、そこそこに音楽聴いてる奴は知ってると思うけどな。」 「…そうなんだ…あたし、全然詳しくないから…」 園は前髪をかきあげながら 「好きなんだろうけど、嫁さんいる奴はやめとけよ。」 小声で言った。 「…そんな事まで、知ってるの?」 メンバーでさえ知らないのに… 「おまえが関わってるとなりゃ、何でも調べるさ。」 「…でも、あたし達が出会った時って…」 「あはは。確かにな。お互い結婚してたよな。ま、だからもう繰り返して欲しくないっつー気持ちがあんだけど。」 …本当。 あたしって、ダメな女だ。 繰り返して、思い知らされて、なのにまた… 「俺は、いつまでも待つから。」 園の言葉は、甘い薬のように思えた。 「携帯の番号は?」 別れ際、園に聞かれた。 「…持ってないの。」 「マジな話?」 「ん。さっき解約したから。」 野田さんとの連絡のために使っていたような物だ。 彼と終わってしまった今、あたしにはただの塊でしかない。 「じゃ、会いたくなったらどうしたらいい?」 「え?」 「おまえ、どこかで働いてんの?」 「S町の花屋…」 「とりあえず、そこに行けば会えるわけだ。」 園は、普通に笑顔。 プロポーズされるなんて、思わなかった。 何年も会ってなかった。 その間に園が離婚していたとしても、きっと新しい人ができてても不思議じゃなかったし。 …それ以前に、あたしには野田さんがいる。 そう思ってたし…
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