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「あいつ、あれだろ?歌ってる奴だよな。」
「…知ってるの?」
「ま、そこそこに音楽聴いてる奴は知ってると思うけどな。」
「…そうなんだ…あたし、全然詳しくないから…」
園は前髪をかきあげながら
「好きなんだろうけど、嫁さんいる奴はやめとけよ。」
小声で言った。
「…そんな事まで、知ってるの?」
メンバーでさえ知らないのに…
「おまえが関わってるとなりゃ、何でも調べるさ。」
「…でも、あたし達が出会った時って…」
「あはは。確かにな。お互い結婚してたよな。ま、だからもう繰り返して欲しくないっつー気持ちがあんだけど。」
…本当。
あたしって、ダメな女だ。
繰り返して、思い知らされて、なのにまた…
「俺は、いつまでも待つから。」
園の言葉は、甘い薬のように思えた。
「携帯の番号は?」
別れ際、園に聞かれた。
「…持ってないの。」
「マジな話?」
「ん。さっき解約したから。」
野田さんとの連絡のために使っていたような物だ。
彼と終わってしまった今、あたしにはただの塊でしかない。
「じゃ、会いたくなったらどうしたらいい?」
「え?」
「おまえ、どこかで働いてんの?」
「S町の花屋…」
「とりあえず、そこに行けば会えるわけだ。」
園は、普通に笑顔。
プロポーズされるなんて、思わなかった。
何年も会ってなかった。
その間に園が離婚していたとしても、きっと新しい人ができてても不思議じゃなかったし。
…それ以前に、あたしには野田さんがいる。
そう思ってたし…
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