第九章

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「ねえ、園。」 「ん?」 「…どうして、あたしと結婚…?」 バスが来た。 園は、バスのドアが開いた瞬間、あたしの手を握って言った。 「ずっと、探してた。」 「……」 「ずっと朝子が欲しかった。」 園の目を見つめる。 「…またね。」 それだけ言うのが精一杯だった。 手を離して、バスに乗る。 手を振る園を見つめながら、考える。 出会った頃は、園に夢中になった。 恋に恋してる感じだったけど、それは雅樹との乾いた関係を潤せるほどの力を持ってた。 だけど、一線を越えてしまう出来事は…園と双子の妹、志乃さんの企みも手伝ったような気がして…2人が怖かった。 それでも結局、あたしは雅樹を弟の寛武に取られて、自ら園を欲しいと思った。 あたしは、自分の感情をよく分かってない気がする。 雅樹を愛してた。 園に恋をした。 亮太の事も、愛しいと感じた時期があった。 野田さん…野田さんほど手に入れたいと思えた人はいない。 ここ数年の間に、あたしを抱いた男達。 あたしは冷たい心のままで、みんなに抱かれた。 あの時、もっと素直になっていたら? 亮太は、ナオではなくあたしを選んだ? 野田さんは、あたしとの関係を続けて、いずれはあたしのものになってくれた? 今となっては、全て後悔だ。 後悔しないためにも、今のあたしがするべき事は何? バスがマンションに近付く。 橋の手前で、自転車に乗った野田さんが見えた。 …土手、走るのやめたんだ。 胸が痛くなった。 昨日の今日だけど 、野田さんはあたしの事を忘れてないだろうか。 あんなに体を重ねて、唇の形まで思い出せるほどキスをした。 目を閉じると苦しくなる。 所詮不倫。 今更だけど、犯罪だと思えばあきらめられるかもしれない。 あたしのせいで誰かが泣く事を、何とも思わなかった。 そんな気持ちは、持ち備えていなかった。 だけど…これからは持とう。 あたしは、まだ生まれ変われる。 きっと。
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