第十章

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「どうしてあたしを見つけたの?あのままベランダで干からびて死ぬ予定だったのに。」 「朝子、ちょっと待て。」 「こんな思いするなら」 「待てって。」 野田さんはあたしの肩に手をかけて。 「あのさ、俺はちょっとしたケンカだと思ってんだけど。」 なぜか少しだけ笑顔で、あたしの顔を覗き込んで言った。 「…え?」 「分かり合えない部分が出てきた。じゃあ、これからそこをどうしていくか、ちょっと頭冷やして考えなきゃなとは思ったけどさ。」 「……」 「まさか、携帯解約するとは思わなかったな。」 「だって…もう終わったんだと思って…」 あたしの言葉に、野 田さんはふっと優しい顔になって。 「こんなケンカで終わるわけねーじゃん。」 あたしを抱きしめた。 「…だって…」 「悪かったな…おまえ、ずっと我慢してたんだ?」 「……」 「今度からは、どんどん言えよ。」 「…引かない?」 「引かねーよ。譲れない部分は俺も言うけどさ。でも、どうしても朝子が不倫に耐えられないっつーなら…その時は俺から身を引く。」 嬉しくなったり、悲しくなったり。 野田さんは、あたしを喜ばせておいて…結局最後に突き落とす。 何だ… 奥さんとは別れる気なんて、やっぱりないんだ… 現実を突きつけられて、あたしの嫌な女の部分に火が付いた。 「本当に、身を引けるの?」 野田さんの胸にすがって言う。 「…努力はする。」 「あたし…プロポーズされてる。」 「プロポーズ?」 野田さんが驚いてあたしの顔を見る。 園を引き合いに出してしまった。 だけど、それが何なの。 あたしはまた戻ってしまった。 純粋な気持ちなんて、結局負けてしまうんだ。 欲に勝てる物なんて、何もない。
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