第十一章

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「…大丈夫っすか?顔色最悪っすよ?」 青木君が声をかけてくれて我に返る。 「あ…あ、大丈夫。」 「産まれそうとか?」 「ううん。平気。さ、仕事仕事。」 落ち着いて…あたし。 あたしは、選んで…歩いてるのよ。 違う道を。 背後に大勢の人がライヴハウスに出入りするのを感じながら、それでもあたしは振り向かなかった。 一度も。 振り向かない。 そして、心の準備をしていた。 もし、野田さんに会ったら。 会ったら…普通よりもっと冷たい顔で会おうと。 大丈夫。 「残すは下だけっすね。俺が運びますよ。沢田さん、直しだけやってもらっていいっすか?」 青木君がテキパキと動いてくれて、あたしは随分助かった。 あまりメルヘンチックにならないような花にしたつもりだけど、お客さんの反応はどうなんだろう。 そこが少し気になったけど、ライヴを見に来る気にはならない。 あまり周りをみないように、エレベーターに乗り込む。 …何コソコソしてるの? こんなの、あたしらしくない。 顔を上げる。 エレベーターのドアが閉まるまで、通路とライヴハウスの入り口を見据えた。 そこに野田さんの姿はなか った。 ホッとしながら一階に着いたエレベーターを降りる。 「あ、沢田さん。これでどうですかね?」 青木君が組み立てたスタンドと、その上に取り付けた花をチェック。 少し手直しをして、不要な物を撤収。 「さ、帰ろう。」 「ああ~沢田さん、そんなに持たないで。」 「発泡スチロールだもん。大丈夫よ。」 両手いっぱいに発泡スチロールを持って、青木君と車に…
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