第十一章

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「あの、どういう事でしょう?」 「…彼女に聞いたら?」 野田さんの奥さんは、あたしを視線で差した。 みんながあたしを振り返る。 「…沢田さん…?あの、うちの沢田が何か…」 「何か?ふふ。まあ別に大した事じゃないのよ。ね?沢田さん。」 「……」 何でバレたんだろう、とか。 何でこんな目に、とか。 そんなんじゃなくて。 あたしは今まで、誰かを不幸にした上で…誰かに愛してると言って来たんだ…と。 初めて、後悔した。 守りたいものがある。 だけどそれを守るには、あたしの鎧は薄っぺら過ぎる気がした。 「……あたしが、悪い虫ですか。」 腹をくくった。 少しだけ笑顔で、野田さんの奥さんに立ち向かう。 「そうでしょ?誰彼構わず、吸い付くんでしょう?」 「誰彼構わず?とんでもない。」 「………」 結んだ髪の毛を解いた。 エプロンを外して、奥さんの前まで歩いた。 「……あなた…」 奥さんはあたしのお腹を見て絶句して 「…何なの…それ。誰の子なの。」 戸惑った顔で、あたしに詰め寄った。 「誰の子かなんて、あなたには関係ないです。」 「……」 「誰彼構わずなんかじゃない。あたしは、あたしを愛してくれる人と一緒にいただけです。」 あたしは店長達を振り返って 「お世話になりました。」 頭を下げた。 「…えっ?」 「あたしが悪い虫だとしたら、ここに居ると御迷惑をおかけするので辞めます。」 「えっ…ど…どういう事…?」 「こんな素晴らしいお店で働かせていただいて、本当に嬉しかったです。ありがとうございました。」 もう一度お辞儀をして、あたしは店を出た。
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