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「待ちなさい。」
野田さんの奥さんが、あたしを追って来た。
「…何ですか。」
「野田の子供なの?」
「…あたしの子供です。」
「婚約者とはどうなったの。」
「あなたには関係ありません。」
「関係ない?あなた、私が何も知らないとでも思ってるの?自分を愛してくれる人と一緒にいただけですって?不倫はね、犯罪よ。」
「……」
「自分達が愛し合っていれば周りは関係なくなる。不倫て怖いわ。ある意味麻薬みたいなものよね。でも、その裏で苦しみ続ける人間がいるのよ。」
あたしはその言葉を噛みしめていた。
寛武に雅樹を取られた時、味わった屈辱。
あたしはそれを他人にも味あわせた。
この人だけじゃない。
亮太の妻にも。
「自分の子、ね。不倫の証って事ね。その子供は一生不倫の子として生きなきゃいけないのよ。母親の勝手なエゴで。なんてかわいそうなのかしら。」
奥さんは言葉を止めなかった。
野田さんと居た時にあたしが溜め込んでいた想いよりもずっと、この人の方が多くを抱えていたに違いない。
「私がどれだけ気持ちを押し殺して…野田があなたの所へ行くのを見送っていたと思う?」
「…なぜ、言わなかったんですか?」
「…なんですって?」
「なぜ、行かないでってすがりつかなかったんですか?」
「…あなたには分からない、妻のプライドよ。」
「そんなプライドがあるから、胡坐をかかれていたのでは?」
「…!!」
頬に、奥さんの手が鳴った。
「私が…私がどれだけ…!!」
奥さんは、そこから言葉を出すことができなかった。
興奮して、過呼吸になって…その場に崩れ落ちた。
店先でそれを見ていた青木君が救急車を呼んでくれた。
あたしはそれを、重い気持ちで眺めているだけだった。
店長から、何があったとしても辞めないで欲しい。と言ってもらえた。
だけどあの店が好きだったからこそ…あたしは、辞める事を変えなかった。
野田さんの奥さんが目の前で倒れて…
あたしは、自分が流産した時の事を思いだした。
亮太が憎かった。
なのに一緒にいた。
ぬるま湯のような…幸せとは言えなくても、あたしを必要だと言ってくれる亮太から、離れられずにいた。
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