第十一章

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次の仕事を探したかったが、もう予定日が近い。 フリーで仕事をする手もあるが、そこまでの実力を持っているわけじゃない。 アレンジメントの教室も、あの店のバックアップがあったからこそできた事。 ♪♪♪ ふいに携帯が鳴る。 画面には『青木君』の名前。 「はい。」 『あ…もしもし、沢田さん?』 「うん。何?」 『ちょっと…店の近くまで出て来られるかな…』 「…どうしたの?」 『えっと…この前の女の人が…』 「……分かった。」 あたしはバスに乗って店の近くまで行った。 青木君にメールで確認すると、向かい側のビルの喫茶店に、野田さんの奥さんがいるとの事だった。 喫茶店に入ると、一番奥のテーブルに、奥さんがいた。 「……こんにちは。」 「…座れば。」 「……失礼します。」 しばらく無言だったが、奥さんが静かに話し始めた。 「…私には、子供ができなかった。」 「……」 「野田は子供が嫌いだったし、私も仕事が忙しくてそれどころじゃなくて。気が付いたら出産するには高齢と呼ばれる年になってたわ。」 奥さんはたばこを取り出そうとして…やめた。 「野田を自由にする事で、彼の信頼を得ていると思ってたわ。どこに行っても、野田は私の元に帰ってくる。見ないフリさえしていれば…」 「……」 奥さんは… 野田さんを愛してた。
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