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「…彼は、いつもあなたの元に帰りました。」
「………」
「何があっても、離婚はしないと言い張って…結局あたしは二番でしかないって…」
今日の奥さんは、以前と雰囲気が違っていた。
あたしも、野田さんとの事を隠すことはなく、話をした。
「…野田とは、別れたのよ。」
「…え?」
「別れたの。土下座して頼まれたわ。」
「……」
「でも、あなたと一緒になる事は許さないって言ったら、かなり悩んでたけどね……それでも別れる方を選ばれてしまったわ。」
「……」
「もう、いいわ。あなた、野田と一緒になりなさい。」
「…えっ?」
奥さんの言葉に、下を向いていた視線が上がる。
「子供の事を思ったら…許せない気持ちより、哀れな気持ちの方が強くなったのよ。」
あえて、奥さんは嫌味な笑顔をされた。
「あなたは妻としてのプライドをつまらない物だと思ったかもしれないけど、そのつまらない物を持たせるのは、夫なのよ。」
「…分からなくもないです…あたしも、二番目に徹するプライドみたいな物を持ってたから。でも…今思うと、それもやっぱりつまらない物でした。」
あたしの言葉に、奥さんは少しだけ目を閉じて…小さく笑った。
「ハルキは子供が嫌いだから、どうするかしらね…」
「……?」
「………野田は、あなたが思ってるより子供よ。そんな子供の野田が、どう出るか…まあ、聞いてみたら?これ、連絡先よ。」
奥さんは電話番号の書かれた紙をあたしの前に残して、その場を去った。
本当なら、殺したいぐらい憎いであろうあたしを…
もらった紙はバッグの中にしまいこんだままだった。
連絡をする気にはならなかった。
あたしはきっと、野田さんじゃなく…
不倫というシチュエーションに盛り上がっていただけなんだ。
そう思えて…彼との将来を考える気にならなかった。
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