第十一章

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「沢田さん、お客さんよ。」 山中さんにそう言われて、店先に顔を出すと… 「……」 こちらに背中を向けた、金髪。 「…野田さん…」 あたしが小さく声を掛けると、野田さんはゆっくり振り返って 「…元嫁から、話を聞いて。」 寂しそうに笑った。 青木君の小さな悲鳴を背中に受けながら、あたしは店長に時間をもらって外に出た。 少し歩いた場所にある川沿いの公園。 野田さんとベンチに座ると 「…連絡をくれなかったって事は…望みはないんだよな?」 小さくつぶやいた。 「……」 「この前逢った時、おまえの姿見て…結婚したんだと思ったら狂いそうになった。」 「……」 「今思えば、何であんなへったくそな演技に騙されたかな…」 「…失礼ね。」 「ツアーから帰ったら、あいつが来たんだ。」 「…え?」 「朝子の居場所を知らないかってさ。やられた。って思ったね。」 「……」 野田さんは小さな石を川に投げて、広がる波の模様をしばらく眺めていた。 「朝子の言ったことが嘘だと分かって、嬉しかった。でも…その後で、元嫁から連絡先を教えたって言われて…」 「……」 「連絡がないって事は…もう、俺たちをつなぐものはないんだと思った。」 「…野田さん。」 あたしはお腹を触りながら、深呼吸する。 「ん?」 「野田さんて…ハルキさんっていうのね。」 「…え?」 「あたし、何にのぼせあがってたのかな。野田さんの下の名前も知らなかったって、あり得ないよね。」 「………」 野田さんは呆れた顔をして、『マジかよ』って足元を見た。 「陽が上る頃に生まれたから陽生。朝生まれた朝子みたいだろ。」 「…ふふっ。」 「…あはは。」 しばらく二人で笑った。 そこには、以前のような熱い何かはなかった。 野田さん。 あたし、あなたが大好きだった。 お互い傷付け合いすぎたね… ごめん。 どうか。 あなたは、あなたの夢を。
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