第十一章

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「ハルキ、傷心旅行に出たらしいわ。」 「…朋香さん、元旦那の事をサバサバと…」 「あら、あなたの棚ボタみたいな幸せは、誰のおかげだと思ってるの?」 「あー、すいません。お姉さま…」 あたし達より17歳年上の朋香さんは、歳の離れた姉のように、時には若くしてあたしを生んだつもりの母のように、まだ生まれたばかりの娘の顔を、毎日見に来るようになった。 最初はただのお節介だと言って、あれこれ世話を焼いてくれていたけど… 時々、錯覚してしまう。 あたしには、生まれた時から、こんな環境が用意されていたんじゃないか、と。 若い母がいて、優しい夫がいて。 楽しい年下の友達や、頼もしい同僚がいて。 幸せな環境が、ずっとあったんじゃないか、って。 あたしを溺愛した父の事も、あたしから夫を奪った弟の事も。 父を刺した母の事も。 繰り返した不倫の事も。 …忘れちゃいけない。 人を傷付けた。 不幸にした。 本当は、幸せになる資格なんてない。 だから、怖かった。 幸せになるかもしれない事が。 そんな時、園が言った。 「世界中が許さなくても、俺が許す。あー、何様かって?……そんな顔して見んなよ。」 あたしを抱きしめて…そう言った。
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