632人が本棚に入れています
本棚に追加
/242ページ
「もう、いいよ亮太。」
「もういいって…何が?」
「あたしに無理に付き合わなくても。今好きな子と、うまくやって。」
「…でも、仕事とか…困ってるんだよね?」
「選ばなきゃ、働けるわ。」
「どういう事?まさか、夜の仕事とか?」
「それもありかなって。」
「ダメだよ。やめなよ。俺がいやだ…」
「亮太…あたしは大丈夫だから。とりあえず、引っ越そうと思うの。家賃もうんと安くて…今までの自分は捨てなきゃね。」
「…朝子さん…」
「最後に、部屋に来る?」
「……」
亮太は無言だったけど、あたしについ て部屋に来た。
「…ここに一人で住んでたの?」
部屋に入ってすぐ、亮太は呆れたような声で言った。
「贅沢でしょ。バカよね。別れた夫と弟に負けたくなかったの。生活水準を下げる事は、負ける事だなんて、どこかで錯覚してた。」
「……」
「ただの負けず嫌いよね。」
亮太は心揺れている。
あたしを背後から抱きしめて。
「朝子さん…ほっとけないよ。こんな状態だなんて…」
切なそうな声で言った。
「大丈夫。あたしは、あなたより大人だもの。」
そうよ。
あなたより、ずっと大人でしたたかでズルい女よ。
最初のコメントを投稿しよう!