第六章

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第六章

「朝子さんとライヴって超久しぶりじゃない?」 今日子ちゃんが、チケットをヒラヒラさせて言った。 3月だと言うのに、まだ雪。 そんな寒い火曜日の夜、あたしは野田さんがヘルプで参加しているバンドのライヴに行く事にした。 本命のバンドは、メンバーの都合上なかなかライヴができないらしい。 「コーシロー君とはどうなってるの?」 バッグからチケット出しながら問いかけると。 「んー友達以上恋人未満って感じかなー。」 今日子ちゃんは唇をとがらせて答えた。 「好きだけど、本気になると辛くなりそうだし。これぐらいがいいかなーって。」 「本気になると辛い?どうして?」 「…きっと今日のライヴ見たら分かる。」 今日のバンドには、コーシロー君も出演。 今日子ちゃんいわく、本家バンドを凌ぐ上手さらしい。 ライヴに行く事、野田さんには内緒にしている。 お誘いのメールは来たけれど、知らん顔してしまった。 チケットは、今日子ちゃんに頼んで前売りを買ってもらった。 客席のあたしを…野田さんは見つけるのだろうか。 ……まさかね 。 思ったより大きなライヴハウス。 野田さんのバンドは最後。 あたし達が行った時には、その前のバンドの演奏がすでに始まっていた。 「間に合って良かった。」 今日子ちゃんが、オーダーした生ビールを飲みながら言った。 あたしは何となく飲む気分になれなくて、らしくない気がしたけどオレンジジュースを飲んだ。 「朝子さん、前行かない?」 「あたしはここでいいわ。」 「でも見えなくなっちゃうよ?人気あるから、みんな前行くし。」 「今日子ちゃん行っておいでよ。あたしはいいから。」 「そう?じゃ、あたし前行くね。」 あまり前で見る気にはならなくて、あたしは後ろの壁際に花を添えることにした。
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