第十章

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第十章

しっかりしているつもりでも、気が付いたら抜け殻になっていた。 あたしも普通に、ただの女だ。 そう実感した。 野田さんと抱き合ったベッドに座るだけで、寂しさに潰されそうになる。 自分で終わらせたようなものなのに。 どうしてあの時、突然知りたくなったんだろう。 あたしは野田さんの何なのか。 どうしてあの時、突然言いたくなったんだろう。 あたしには、分からない。と。 「…仕事行かなきゃ。」 ああ、いけない。 ボンヤリしてた。 時計を見ると、仕事に行く時間。 急いで荷物を持って外に出る。 何してるの。 こんな事で下を向いちゃいけない。 もっと辛い事はたくさんあった。 あの屈辱に比べれば… エレ ベーターに乗って一階まで降りる。 イヤになるぐらい青い空。 何となく、きれいな物が憎たらしく感じる。 …荒んでる…あたし。 「あ、沢田さん。お客さんよ。」 出勤してすぐ、お店の長女が言った。 園…もう来たんだ。 何となく会いたくない気もしたけど、一度唇をギュッと食いしばって…それから笑顔を作った。 「そ…」 「よ…」 お店の中であたしを待ってたのは、園じゃなく、野田さんだった。 「……」 「おまえ、携帯解約すんの早すぎね?」 野田さんは近寄って来て、小声でそう言った。 「…何か用ですか。」 顔を見ずに、そう言うだけで精一杯だった。 「ここじゃ何だから…ちょっと。」 「あたし 、今から仕事…」 「すいません。沢田さん、ちょっとお借りしていいですか。」 野田さんはあたしにお構いなし。 長女にそう言うと、さっさとあたしの腕を引いて外に出た。 「ちょ…ちょっと。」 お店から少し離れた公園の手前まで腕を引かれた。
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