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決して自分のものでは無い夢を見た。
眼下に広がる繁栄の頂点を極めた都市。きらびやかな眠らぬ都市。
夢の中の彼は『人間』という、かつてこの星に跋扈跳梁していた支配者の一人として、この“都市”で生活している。
見上げれば先の見えない天を貫く摩天楼。見下せば底の見えない奈落の深淵。
なに不自由ないきらびやかな生活。代償として失ったきらびやかな夢。見た目の豊かさと反比例する心の豊かさ。
人々は疲れきっていた。眠らぬ都市は疲れきっていた。人間に憑かれきっていた。
夢を無くした人々が、夢を願って夢を見る。都市に抱かれて夢を見る。
都市と言う名の冷たい揺篭。それが願いの終着点。最後の最後で辿り着く悲しい夢の墓場。
彼は、そんな“都市”を歩いていた。美しい都市。繁栄と平和の象徴たる都市。無個性の都市。
何も思わない。考えない。ただ、足が赴くままに、流れのままに、人々はみなこの眠らぬ都市を徘徊していた。
此処は、自由と言う名の不自由に縛られた虚像の都。『都市』と言う名の巨大な墓標。
彼は見上げていた。高くも無く低くも無い、両脇の摩天楼の狭間に忘れ去られた栄光の残骸を。
その入り口には『取り壊し予定』の色褪せたチラシが一枚。
お前も、俺と同じだ。そう、彼は思っている。誰からも必要とされなくなった。彼は導かれる様に、その足を進める。上へ、上へ、上へ――
その日、彼は――
――栄光の残骸から、その身を投げた。
落ちる。深淵へと向かう一瞬。次の瞬間、彼は――
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