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――寝所で目を醒ました。
今のは何だったのか? 夢だと言うのは解るのだが――
そして、寝所から出て外を見た彼は、目の前の光景に驚愕する。
数十年前、二度と帰らぬつもりで後にした故郷の景色が、目の前に広がっていたのだ。
あまりの出来事に彼は言葉を失った。
そんな筈は無い。心の奥底で強く否定する。だが――
天高く輝く連星の赤い恒星。久しく忘れていた懐かしの情景に、心の平静が奪われる。懐郷心が揺さぶられる。
危険だ。彼は無理矢理そうだと自分自身に言い聞かせた。此処は危険だ。だが、懐郷心がその危機感を安堵感へ誘おうとする。
それこそ危険だ。彼は意志を強く保つ為に昨日の出来事を思い出す事にする。文明の痕跡の発見。発掘した巨大な“キカイ”――
彼は唐突に、全くもって唐突に、原因はその“キカイ”だと理解する。
(“都市”の夢に取り込まれてはいけない)
誰かの記憶が、頭の中でそう囁く。彼はその誰かの記憶を思い出していた。いや、この記憶は『誰か』という、特定の一人ではない。これはかつて、この地を支配していた生命の総意識体の記憶。
(かつて人が作り上げた“都市”は、数十億という人の願いにより、いつしか夢を実現するだけの力を身に付けてしまった。夢を見る人がいなくなった後も、“都市”は眠る事無く夢を叶え続けた。存続こそが“都市”の夢だ)
遥かなる記憶は続く。彼はその記憶を懸命に辿った。
(遥かなる百億の昔。人々は何らかの理由で肉体を捨て“都市”へとその記憶だけを取り込ませた。以後、彼等は数十億の歳月を“都市”の中で過ごす。だが、“都市”は徐々に狂い始めていた。それは人なのか人の見る夢なのか。0と1の世界では、いつしかその境目はあやふやになっていった)
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