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そして今回、僕達は北海道のしかも最北端といってもいい稚内という街に来ている。
いつものように駅前の不動産屋に行くと、わざわざ真冬の時期にこんな所に越してくるなんて、しかも子供連れじゃ大変だろうと、そこの主人は父さんが肩に背負ってる絵の具やらキャンバスを物珍しそうに眺めてそう言った。
僕達はいつも、新しい街に着くと不動産屋に立ち寄って一番安いアパートを借りる。
短期や月決めの賃貸マンションがあれば一番だけど、田舎町にはそんなしゃれたものはないから、たいていは敷金礼金もないような、ボロアパート。
「いや、この子のおかげで随分助かってるんですよ」
笑いながらそう言った父さんを見上げて、僕はとびっきりの笑顔をつくる。
素直な良い子。親思いの優しい子。
仲の良い親子の姿を見せつけると、不動産屋の主人は感心したように、ひとつ息を吐く。
「いや、失礼しました。とても良いお子さんをお持ちですな、美作さん」
御主人の言葉に僕達は照れたように笑いながら、ようやく案内されたアパートへと向かう。
それがいつものパターンだった。
そう、僕はいつだって素直な良い子を演じている。
僕の所為で父さんが後ろ指を指されることがないように。
ただでさえ、いくら仕事のためとはいえ、こんな子供をいいように引っ張り回して、全国を旅して回っているなどと、とんでもない父親だと親戚の人達が白い目で見ているのだ。
片親しかいないからとか、父さんがあんな人だからとか、そんな陰口を少しでもなくす為の、これは手段。
僕達親子が生きていくための手段だった。
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