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「親父さんのお迎えか?」
少年が一緒に立ち上がりながら僕に訊いてきた。
「うん。ごめん。僕、行くね」
「ああ。じゃあ、また明日な」
「……え?」
駆け出そうとした僕は、思わず立ち止まって少年の方をふり返った。
「明日?」
「ああ」
少年は何かおかしな事を言っただろうか、といった表情で僕を見ている。
明日、また会おう。
思い返して見ると、僕はここ最近、そんな単純な約束さえ誰とも交わしたことがなかったことに気付いた。
「……どうかしたのか?」
少年が不思議そうに僕を見る。
「ううん、何でもない。また明日ね」
「ああ、また明日」
少年の後ろではさっきの勿忘草が風に揺れている。
その時、僕はもしかしたら泣きそうな顔をして笑っていたのかもしれない。
少年の住むこの街が、とても好きになれそうな予感がした瞬間だった。
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