第一話 -雪割草-

4/33
前へ
/195ページ
次へ
 でも父さんは、ひたすら絵を描き続けている。  ひとりで。  だから僕は、そんな状態なのに、よく母さんと結婚できたものだと不思議に思ってた。というか、母さんはこの人のどこが良くて結婚したんだろう。  なんて。  幼心にそんなことを考えていたこともあったんだけど、でも、結局僕のその疑問は永遠に解けない謎になってしまった。  何故なら、母さんが亡くなってしまったから。  母さんが生きていた頃、父さんは一人で絵を描きに出かけていたので、僕は母さんと二人で父さんの帰りを待つ、という生活をしていた。  ちょっと違うけど、単身赴任みたいな感じ。  でも数年前、病気で母さんが亡くなってから、父さんは絵を描くための旅に僕も同行させるようになった。  何故って、僕はまだ小学生だったし、ひとりで留守番するのは難しかったんだ。  それに、だからって実の親がいるのに、父さんが出かけるたびに施設や親戚に預けられるっていうのは、なんだか違う気がしたからだ。  父子二人での旅暮らし。  最初の頃、いつも家にいなかった父さんと、これからはずっと一緒にいられるんだと思ったら、ワクワクしたし、ちょっと嬉しくもあった。  でも現実はそんなに甘くない。楽しかったのは最初だけ。父子二人だけの旅には、随分と苦労させられた。  っていうか、させられている。現在進行形だ。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加