第一話 -雪割草-

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 そんな彼らに混じって、僕もボール磨きに精を出す。  ここ数週間はずっとこんな感じだ。  サッカーはもともと好きでも嫌いでもなかった。  それでも、ほかに遊び道具がなかったから好きにならざるを得ないっていう感じだった。  常に旅続きの僕達父子には贅沢なんかする余裕はない。テレビもないし、ゲームなんてもってのほか。  つまり僕は、家で遊べる電子機器の類を僕はまったく持ってなかったんだ。  そうなると外で遊ぶしか方法はない。しかもできるだけ道具を必要としない方法で。  野球をやってみたかったけど、バットもグローブもない。  テニスをやってみたかったけど、ラケットがない。  さすがにただただ走るだけの陸上じゃ、遊びにはならない。  あれもできない。これも駄目。  そうして最終的に残ったのがサッカー。  なんとか父さんに安いサッカーボールを買ってもらうことができたのが、きっかけといえばきっかけだったんだけど。  だから、この街に越してきて最初に覗きに行ったのが小学校のサッカーグラウンドだったのも当然の成り行き、みたいなものだった。  ただ、それでも僕は部活動に参加するつもりは、これっぽっちもなかったんだ。
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