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ここは北海道の中でもさらに北のほうに位置する稚内。
海の向こうには何かの映画の舞台にもなった礼文島や利尻島が見えるような場所だ。
最北端と言われるだけあって、市内にある小学校は総生徒数が百人にも満たないんじゃないかと思われる小さな学校だった。
一学年が一クラスしかなく、体育などの合同授業では二学年一緒に授業を受けることもあるという。
そのせいか、ここでは学校中みんなが知り合いで、ほんの些細な出来事さえ、全校生徒が知るのにさほど時間はかからなかった。
街中が知り合いだらけで、まるで巨大な家族のようなこの街は、ずっと他人の中で過ごしてきた僕にとってとても不思議な街に思えた。
「オレ達、みんな兄弟みたいなもんだから」
光基がそう言った時、やけに羨ましかった。
僕は永遠に言うことはないだろうその言葉を、何のてらいもなく発する光基が羨ましかった。
でも、その次の言葉は、そんな僕の気持ちをひっくり返すのに充分値する言葉だった。
「晋、お前ももう、オレ達の兄弟だからな」
そう言って雪の中で笑った光基の顔を、僕は一生忘れないと思った。
それ以来、雪が好きになった。
雪の中で肩を並べて歩くのが好きになった。
初めて、雪を冷たいと思わなくなった。
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