第一話 -雪割草-

16/33
前へ
/195ページ
次へ
 いきなり始まった二人の相談に、僕は戸惑って晴紀を肘で小突いた。 「雪割草?」 「ああ、そっか。晋は知らないんだっけ。オレ達、毎年この時期になると雪割草を探しに行くんだ」  笑いながら晴紀がそう答えた。 「雪割草を探しにって……何の為に?」 「何って……別にたいした理由じゃないんだけどさ」 「…………」 「オレ達にとって雪割草は春の訪れを知らせてくれる花なんだ」  とびっきりの笑顔を見せて言った晴紀の言葉に、僕の胸がズキンっと痛んだ。 「……春の……?」 「そう。雪割草って、その名のとおり、春先、溶けかけた雪を割って花を咲かせるんだ。高山植物だから山の方へ行かなきゃならないんだけど。雪解けの谷川のほとりとかにさ、白い花がポッて咲いてるのを見ると、やっと春がきたんだなって気がする」 「…………」 「北海道の長い長い冬の終わりを知らせてくれて、オレ達に春をプレゼントしてくれる花なんだ。雪割草は」 「…………」 「三年くらい前にさ、オレと和志が偶然見つけて、それ以来、なんか毎年恒例行事になってるかな。みんなでワイワイ言いながら山に登って探しに行くんだ。楽しいよ」  晴紀は本当に楽しそうな顔でそう言った。 「白くて、小さくて、結構地味だけど……可愛い花だよ」 「……そう……」  必死で笑顔を作ろうとした僕の顔が微妙に歪む。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加