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いきなり始まった二人の相談に、僕は戸惑って晴紀を肘で小突いた。
「雪割草?」
「ああ、そっか。晋は知らないんだっけ。オレ達、毎年この時期になると雪割草を探しに行くんだ」
笑いながら晴紀がそう答えた。
「雪割草を探しにって……何の為に?」
「何って……別にたいした理由じゃないんだけどさ」
「…………」
「オレ達にとって雪割草は春の訪れを知らせてくれる花なんだ」
とびっきりの笑顔を見せて言った晴紀の言葉に、僕の胸がズキンっと痛んだ。
「……春の……?」
「そう。雪割草って、その名のとおり、春先、溶けかけた雪を割って花を咲かせるんだ。高山植物だから山の方へ行かなきゃならないんだけど。雪解けの谷川のほとりとかにさ、白い花がポッて咲いてるのを見ると、やっと春がきたんだなって気がする」
「…………」
「北海道の長い長い冬の終わりを知らせてくれて、オレ達に春をプレゼントしてくれる花なんだ。雪割草は」
「…………」
「三年くらい前にさ、オレと和志が偶然見つけて、それ以来、なんか毎年恒例行事になってるかな。みんなでワイワイ言いながら山に登って探しに行くんだ。楽しいよ」
晴紀は本当に楽しそうな顔でそう言った。
「白くて、小さくて、結構地味だけど……可愛い花だよ」
「……そう……」
必死で笑顔を作ろうとした僕の顔が微妙に歪む。
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