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「ただいま……」
結局その日も基礎体力作りに専念しただけで終わってしまった放課後の練習を終え、僕がアパートに帰ると、父さんが奥のアトリエからパレットを手にしたまま顔を出してきた。
「お帰り、晋。ちょうど良かった。今日は少し奮発して外食をしようかと思うんだが、何が食べたい?」
そして父さんは僕の顔を見るなり、嬉しそうにそう言ったんだ。
「……えっ?」
僕は表情を硬くして、一歩後退さった。
「か……完成したの? 絵」
「ああ」
嬉しそうに笑って、父さんは手に持ったパレットをかかげて見せた。
「たった今、最後の仕上げを終えたんだ。あとは絵の具の乾き具合を見て、サインを入れて完成だな」
いつも父さんは絵が完成した日、お祝いを兼ねて僕を外食へ連れ出そうとする。
つまりそれって、僕達がこの地を後にする日が、もう目前に迫ったってことなんだ。
「お……おめでとう」
少し不自然な僕の笑顔に気付くふうもなく、父さんはそのまま流し台の方へと姿を消した。
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