序章 -勿忘草-

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 あれは僕が小学校五年生の時。  母さんが亡くなり、僕は父さんに引っ張られるようにして、引っ越しを繰り返す生活をしていた。  思い出すのも嫌になるくらい、あの頃の僕は自分自身の不幸にどっぷりと浸かっていた。  もう母さんはいないんだということも。  めまぐるしく変わっていく、周りの環境のことも。  なにもかも。  すべてが嫌で嫌でたまらなくて。  すべてのことに反抗意識を持っている、本当に拗ねた子供だったと思う。  そして、あの日も。  新しい街に引っ越してきた初日。僕は不動産屋に立ち寄ってくると言った父さんと別れ、初めてやってきた街の探索にと歩き出した。  不動産屋で父さんがどんな部屋を選ぶかなんて全然興味なかったし、それよりは街を歩いたほうがマシだろうと思ったからだ。
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