第一話 -雪割草-

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 完成……してしまった。  とうとう。  僕は入れ替わりに父さんのアトリエに入った。  イーゼルにかけられた大きなキャンバス。  真っ白な雪景色。  降り積もっていく柔らかそうな雪。  小さな明かりの灯る家の窓。  この間見た時はまだぼんやりとしていた箇所もしっかり描きこまれていて、その絵の中には、確かに僕がここ半年過ごしてきた冬の北海道が、これでもかというくらいいっぱい詰まっていた。  北海道の冬はとても寒いが、一歩家の中に入るととても暖かい。  それは、冷たい冬の空気が入ってこないように窓が二重になっているからだと初めて知った。  毎日交代で運ばなくちゃならない灯油は重くて大変だったけど、教室の中央にある巨大なストーブの上で焼いたパンがあんなに美味しいものだということも初めて知った。  冷たいはずの雪の中。みんなでおしくらまんじゅうをしたり雪合戦をしたりすると、全然寒くなくなるのだと初めて知った。  どうして、絵が完成してしまったんだろう。  僕は無意識に、床に転がっていた赤い絵の具がついたままの絵筆を拾い上げた。
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