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どうせ父さんが探すのは六畳一間の小さなアパート。
しかも、トイレは付いていてもお風呂は銭湯通いで、廊下を歩くとギシギシ音がして、立て付けの悪い扉は下を蹴飛ばさないと開かなくて。
そんな部屋ばかりだったんだから。
それに、その部屋は、ほんの数ヶ月でサヨナラする部屋だ。そんなところに愛着なんかおぼえる暇もない。
僕は小さなため息をついて街の方へと歩きだした。
まだマンションも少なく、木造の平屋の多い小さな住宅街を通り抜けると、古びた小学校が建っていた。
ああ、ここが僕がしばらくお世話になる学校なんだ。
心の中で軽く学校に向かって初めましての挨拶をし、僕は門の影から校庭の様子を窺った。もう下校時刻は過ぎている為か、児童もまばらにしか姿が見えない。
気付くと僕は、またため息をついていた。
あの中の何人と僕は友達になれるのだろう。そして僕が去った後、何人の心の中に僕の存在は残るのだろう。
道ばたの石ころを蹴飛ばし、僕は学校の校門に背を向けると、川沿いの土手をダッシュで駆けあがった。
足もとで草がザッと鳴る。
一気に駆け上がった為、少し荒く息を吐いた僕の目の端に、その時、一人の少年の姿が映った。
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